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ひまわり
第三章
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待も見られた。とりわけ東部戦線でソ連軍に捕まった者達は悲惨であった。しかしイタリア軍に関してはそこまではいかなかった。それはイタリア軍がドイツ軍のように手強いわけでも頑健な性質を持っているわけでもなかったからだ。悪く言えば舐められていたのだがそれがかえって彼等の身を守る結果となったのである。
 こんな話がある。イタリア人ではなくイタリア系アメリカ人に関するものだ。時のアメリカ大統領ルーズベルトはマイノリティへの差別には反対の立場を取っていた。アフリカ系やヒスパニック、中国系、とりわけユダヤ系への差別には反対していた。その中にはイタリア系も含まれていてこう言ったのである。
「イタリア人達は皆オペラ歌手みたいなものだよ。心配することはない」
 彼個人の偏見も混ざっているが当時アメリカに根強かったイタリア系への偏見に反対する言葉である。なお彼の人種意識はいささか歪でありこう言ったそばからドイツ人は違うと言い日本人への敵視も根強かった。だがこれはあくまで余談である。
「けれど何かとイタリア各地を移動させられてな。帰るのが遅れた」
「そうね。けれど」
「何だ?」
「いい時に帰って来たと思うわ」
 にこりと笑って彼に言ってきた。
「丁度いい時にね」
「それはどうしてだ?」
 今度はフランコが首を傾げさせた。そうして彼女に問うた。
「どうして俺がいい時に」
「あれ見て」
 ここでひまわり達を指差してきた。
「ひまわり達。どう?」
「ひまわりか」
 見れば見事なまでに咲き誇っていた。それは今までにない程であった。黄金色の光が地に満ちて眩しいまでだった。
「こんな奇麗なひまわり達は見たことがないな」
「そうね。まるで貴方が帰って来たのを祝ってくれているみたい」
 ルチアはそうフランコに言った。
「だからね。また約束があったわよね」
 そのうえでまた言う。
「帰って来たら」
「結婚だったな」
「そうよ。このひまわりの下で。覚えているわよね」
「だから俺は帰って来た」
 彼はまたそれを言った。
「御前と結婚する為に。じゃあ村の皆を呼ぼう」
「ええ。そして神父様も」
「戦争も終わった。俺達を邪魔するものはもう何もないんだ」
「そうね。何も」
「だから。これからはずっと二人で」
「ええ。永遠にね」
 二人はひまわりの下で誓い合う。約束は果たされた。フランコもルチアも咲き誇るひまわりの下で何時までも笑っていたのであった。


ひまわり   完


                  2007・5・9

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