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失われし記憶、追憶の日々【ロザリオとバンパイア編】
原作開始【第一巻相当】
IF・U「可能性の未来」
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おり、インク特有の臭いが微かにした。


「今日、授業で調理実習があってな、パンプキンパイを作ったんだ」


 部室の隅に目立たないように置かれていた箱を持ち出し差し出してきた。


 受け取ってなかを開けてみると。


「……パンプキンパイ?」


 黒焦げたナニかが出迎えた。


 しかも一ピースでなくホール。香ばしい匂いの変わりに焼け焦げた炭の臭いが鼻腔をくすぐった。


 腕を組んだ萌香が捲くし立てるように言う。


「ちょっと作りすぎてしまったからお裾分けするのであって別に他意はないからな。兄さんに食べてほしくて焼いたとか初めての手料理は兄さんにとかそんなつもりはこれっぽっちもないうぬぼれるなよ」


 萌香よ、一息ではなくせめて区切って言いなさい。本音がだだ漏れしているぞ。


 しかし、これが萌香の初手料理か。怖いような嬉しいような、感慨深いものだ……。


 俺を想って作ってくれたのだから兄冥利に尽きる。これは味わって食べないと萌香にもパンプキンパイにも悪いな。


 可愛らしい妹の反応に頬が緩みそうになった。


「そうか、嬉しいよ。ではありがたく頂こうかな」


 その場で小型ナイフを創り、切り分ける。


「…………」


 刃が通らなかった。


 ナイフの切れ味を修正しつつ力を込めて再度切り分ける。


「いただきます」


 一口サイズに切り分けたパンプキンパイを頬張った。


「ゴクリ……」


 咀嚼する俺を真剣な眼差しで凝視する萌香。


 ジャリジャリと砂を噛むような音がした。


 黙々と食べる俺に業を煮やし、次第にオロオロし始めた。


「や、やっぱり美味くない、か? すごい音がするものな。……やはり失敗――」


「……うん。美味い」


「え?」


 きょとんとした顔の萌香に微笑み返す。


「表面は焦げて硬くなっているが、なかはしっかり焼けている。ん……、美味いなこれは」


 ナイフも通さないほどの硬度をみせた表面だが、なかはしっかりとパンプキンパイをしていた。


 味もよく、なによりも萌香の手作りという点がイイ。


「そ、そうか……よかった」


 胸に手を当ててホッと息をつく萌香。


「よかった……」


 その顔は穏やかでいて思わず見惚れてしまうほど綺麗だった。


「む、ぅ……」


 妙な気恥ずかしさを覚え早々に視線を切る。


(あ、相手は萌香だぞ。妹相手になに意識しているんだ俺は……!)


 熱を帯びた顔を萌香から隠すように残りのパンプキンパイにかぶりついた。

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