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乱世の確率事象改変
受け継がれた意地
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少しだけ気が緩まった。隊列が乱れ無くとも、表情から険が少しばかり取れる。

「ま、そんな固くなりなさんな。これから男同士の話をしようってんだから、あぐらとかかいてかまわん、座って楽にしたらいい」

 そう言われて、はいそうですかと座る者など、親衛隊には一人もいない。
 呆れたようにため息を一つ零してから、しんと静まり返っているその場に彼は言葉を紡いでいく。

「……もうそのままでいいや。さて……じゃあ……あんただ! 家族はいるか?」

 すっと一人の兵を指差して、彼は日常会話の如く緩い空気で笑いかけた。
 いきなりの指名にビクリと跳ねた一人の兵は、どう答えたらいいものかと一寸悩むも、ええいままよとそのまま答えた。

「自分には妻と子が居ります!」

 軍人らしいハキハキとした返事。調練の賜物であろう。居並ぶ兵の全員に聞こえるほどの大声であった。
 うんうん、と頷いた秋斗は、優しい笑みを浮かべて言葉を続けた。

「へぇ、お子さんは今どれくらいなんだ?」
「五歳になったばかりであります!」
「そりゃあもう可愛いんだろうな。娘か? 息子か?」
「息子です!」
「そりゃいい。自分の背中を見せて育てるってのはどんな気分だ? 俺はまだ子供がいないから分からんくてな」

 兵士は言葉に詰まった。
 単純な質問なら答えられたであろうが、それは即座に答えられる質問ではなかった。数瞬、悩んだ後に、兵士は力強い目で答えを紡いだ。

「父は覇王を守る誇り高き親衛隊であるのだと、忠義を胸に乱世を駆けていたのだと、それを誇りに持って平穏な世を生きて欲しいと、そう願う限りです!」

 しん……と、静寂が訪れた。
 秋斗は黙った。じっとその兵士を見つめた。自分と年の程がそう変わらないその兵士を、微笑みを張り付けて見据えていた。
 秋斗の様子を見れない兵士の誰もが、その兵士の答えに感動を覚えていた。自分も息子が出来たらそう願うだろう、娘であってもそう願うだろう、例え、戦場で死ぬ事があろうとも、と。
 問いかけを受けていた兵士と、秋斗を目にしている兵士達は困惑する。なにゆえ、彼は固まったのだ。間違った事は何も言っていない。そも、子を持ったならどんな兵士でも同じであろう……渦巻くのはそんな思考。
 ただ、兵士の発言は、秋斗の虎の尾を踏み抜いていた。

――やっぱり、気付いてないんだな。

 秋斗にとっては予測通りの発言であったが、直接確認すると抑えるはずの怒りが湧き上がった。

「……じゃあ、聞くが。なんでお前は守られてるんだ?」
「……え?」

 間の抜けた声で聞き返す兵士。秋斗はただ、微笑んでいた。ぞっとするような、昏い瞳で。
 兵士は背筋にぞくりと寒気が駆け抜ける。放たれた問いかけは意味が分からず、微笑みは
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