ステイルメイト
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」
苦々しげに呟く。
「御意」
オーベルシュタインは静かに肯くと、改めて立ち上がり敬礼を施した。
ピピッピピッと、ラインハルトのデスクに置かれたTV電話が鳴る。部屋の主は立ち上がってデスクへ戻ると、受信ボタンを押した。内容を確認するとオーベルシュタインの方を振り返って、
「卿あてだ」
と、彼を呼び寄せる。オーベルシュタインはラインハルトに向かって軽く頭を下げてから、主君に代わってヴィジホンの前へ立った。
『このような夜分に、また、ご多忙のところ失礼いたします』
そう告げた本人も軍服のままで、恐らくまだ職務に従事しているのであろうと思われる。オーベルシュタインは小さくかぶりを振った。
「それは構わぬが、急用か、フェルナー大佐」
画面の先には、先ほどから話題の中心となっていた、癖の強い銀髪の不遜な部下の顔があった。
『いえ、緊急の用ではありませんが、今夜中でなければ意味がないという点では急用と申せましょう』
自信たっぷりの彼にしては、いつになく歯切れが悪い。オーベルシュタインは眉間に皺を刻んだ。
「何だというのだ」
画面の向こうで、フェルナーがほんの一瞬逡巡する。しかし重ねて問う間はなく、すぐに卒のない笑顔がこちらへ向いた。
『閣下のお誕生日をお祝いするために、春摘みのダージリンを手に入れましたので、日付の変わらぬうちにお戻り下さい』
事務的な報告でもするかのような顔と声で、オーベルシュタインの私的な領分に踏み込んでくるのはいつものことと分かってはいたが、この時ばかりは唖然とせざるを得なかった。よりによってラインハルトの執務室にまでとは。溜息まじりに呆れつつも、オーベルシュタインは部下の態度を画面越しに品評した。真摯で誠実そうな笑みは、果たして彼の本意であろうか。
『閣下?』
再度問われて我に返る。いずれ戻るところではあったし、やりたくもない人物評から逃れる口実にはなる。
「ああ、分かった。用事は済んでいるから、すぐに戻る。春摘みであればストレートが良いな」
そう答えると、部下の翡翠の目が嬉しそうに輝いた。
『承知いたしました。とびきり美味しくおいれいたしますので、早くお戻り下さいね』
オーベルシュタインはヴィジホンの通信を切ると、ラインハルトへ向かって一礼した。
「今日は卿の誕生日だったのか」
「はい……」
誕生日の夜に、友人でもなく、まして妖艶な美女でもなく、上官を相手にチェスをしながら人物評を繰り広げ、部下と紅茶を嗜むとは、なかなか風変わりな過ごし方だとラインハルトに笑われて、オーベルシュタインはそうせざるを得なかった元凶へ冷たい視線を投げた。今更どれほど努力したところで、変えようもない事実であるのだから、余計なことは口にしないのが得策である。オーベルシュタインは再度敬礼を施し、退室の許可を請
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