ステイルメイト
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いたことがあった。
「卿はあの二名をどう思うか」
蒼氷色の瞳が好奇心を湛えてこちらを真っ直ぐ見つめているのを見て、オーベルシュタインは内心で溜息を吐いた。
「私の口からそれを語らせることに、何の意味もありますまい」
不快の微粒子を無表情で包み隠しながら答える。だがその程度では、若き主君の翻意を得られなかった。
「たまには卿の語る人物評に耳を傾けるのも一興であろう。この勝負が続く間だけで構わぬぞ」
傍らのワイングラスを手に取って、義眼の部下へと差し向ける。オーベルシュタインはしばらく頑なに射抜くような目で主君を見返していたが、やがて仕方なく、差し出されたそれを受け取った。
「では、この勝負が終わるまで」
そう言ってチェス盤に目を落とすと、次の手を打ちながらおもむろに口を開いた。
「ミッターマイヤー提督は知勇のバランスで見るといささか勇に傾いております。しかし、人望厚く卓越した統率力を発揮でき、といって自身の能力に驕ることなく分を弁えた振る舞いのできる稀有な存在と言えましょうな」
主君の顔を見やると、無言のまま先を促される。
「ロイエンタール提督は……」
言いかけて、オーベルシュタインは半瞬躊躇った。それはオーベルシュタイン自身がロイエンタールに対して、表現しがたい異様な警戒心を抱いているからにほかならなかった。それを口にすべきかどうか迷って、しかし半瞬の後には滑らかに言葉を繋いだ。
「ロイエンタール提督はバランスの面から見ると知勇を兼ね備えているでしょう。閣下よりも」
「ほう、私よりもか」
ラインハルトが楽しげに問い返す。自分を上回るという評価に、ラインハルトはいささかも不快感を覚えなかった。彼自身も同様の評価を、金銀妖瞳の男に下していたからである。
「左様です。ですが彼は閣下のようにはなれません」
今度の言葉は予想外であった。いや、想像外と言った方が正確であろう。彼の野望を共有する数少ない部下の一人が、背反して自分と同じ立場につくという想像を、彼は全くしていなかった。だから興味深げに肯いた。
「彼の球は閣下には到底及ばない。ものの喩えとご承知いただければ幸いですが、もしロイエンタールが皇帝たらんと欲したとして、現在の皇帝の首を切って自身がその座におさまる程度のことはするでしょう。ですが、宇宙の統一、政治中枢の刷新といったところには、恐らくそれほど興味を抱きますまい。唯一絶対の権力者として何者の下にもつかぬ立場に満足するだけで、真に国民の支持を得る独裁者にはなれんでしょうな」
ロイエンタールから感じ取る薄気味悪い野心の存在については明言せず、一見表現を控えたかに見えて、これはラインハルトへの無遠慮な忠告であった。権力を欲するのは構わないが、その座についた時に己の本分を忘れぬようにと釘を刺し
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