ステイルメイト
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豪奢で懐古趣味の色合いの強い部屋は柔らかな白熱球の灯りに照らされて、その繊細な装飾品が微に入り細に渡り美しく磨き上げられていることを主張していた。リップシュタット連合軍との戦いが本格化しようとしている前夜、宇宙艦隊総参謀長パウル・フォン・オーベルシュタイン中将は、上官であり帝国軍最高司令官であるラインハルト・フォン・ローエングラム元帥の執務室に招かれていた。招かれていたと言っても、今作戦の確認や大貴族たちの下へ潜入させた士官からの報告などを携えて、オーベルシュタイン自身が訪ねていったのだ。
「今頃、提督たちは何をしているのであろうな」
報告を終えたオーベルシュタインをチェスの相手に据えた黄金の獅子は、他愛もない話題の一つとして、出征前の軍人たちの心情を予測せよと皮肉げな笑みを浮かべた。卿には理解できるはずもないだろうがと、その顔は言っていた。
「博打、酒、女でしょうな」
オーベルシュタインは上官の含み笑いを完全に無視して、能面のような顔のまま答えた。およそ心の機微など察するとも思えぬ男の口から、ありがちで俗っぽい言葉が発せられ、ラインハルトは思わず目を見開いた。
「そう驚かれることもありますまい。あくまで一般論です」
小馬鹿にするような口調で躊躇いもなく言ってのける参謀は、細く滑らかな手でポーンを進めた。受け手を思案するラインハルトの瞳が、じろりとオーベルシュタインの顔を睨む。オーベルシュタインが、上官の動かそうとしていた駒を封じてしまったのが原因らしい。睨まれた部下はふっと溜息を吐いて色の薄い唇を動かした。
「優秀な人材が集まりましたな」
諸提督の話題に戻すことで、上官の負の感情をやり過ごす。この程度の操作は、苛烈な情動を持つ若き覇者の側近として仕える身となってから、容易く行うようになっていた。涼しい顔で自分の激情を抑えられたラインハルトが、美しい眉間にほんのわずかな皺を寄せる。
「集まったのではない、集めたのだ」
足を組んでナイトの駒をつまむ様が、えも言われぬほど優雅で、オーベルシュタインは僅かに目を細めた。
「御意ですが、結局のところそれは、閣下の懐の深さ所以でございましょう」
常と変らぬ口調で紡がれた言葉に、ラインハルトが意外そうな表情で笑う。
「卿が私を手放しで褒めるとは珍しい。雨でも降らねば良いが」
そう揶揄して目をやった窓の先には、完全に日の暮れた闇が映っていた。オーベルシュタインもふんと鼻で笑うと、話の先を進めた。
「ロイエンタール、ミッターマイヤー両大将にはレンテンベルク攻略に赴いて頂きます。出征準備も済み、ミッターマイヤー提督は奥方と、ロイエンタール提督はどこぞの美女とそれぞれ美酒を楽しんでいる頃でございましょう」
なるほど、と面白そうな顔をして、ラインハルトはそれぞれの様子を想像した。そして、ふと思い付
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