第三十話 愛してるぜ
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いるが、気持ちが折れて泣きそうなのを必死で堪えているようにしか見えない。
カァーン!
2番の大西の打球は、これまた鋭いライナーだが、セカンド銀太の真正面。やっとスリーアウトが成立して、帝東の一回の裏が終わる。
「あちゃーもったいない!損した!」
大西は天を仰ぐが、もったいないなどという言葉が出る段階で、帝東サイドは余裕が出てきた。
すっかり舐められた紅緒は、ベンチに戻りながらユニフォームの袖で汗を拭う。
「……うぅ……」
汗を拭う振りをして涙を拭いている事は、誰にも悟られなかった。
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「一体、どうしちまったんだ、紅緒は……」
「こんな打たれた事、今まであったかよ」
頼みの紅緒がボコボコに叩き潰された南十字学園ナインの戦意の火は、まさに風前の灯。許されるならこのまま試合を終わって帰りたい、そんな惨めな顔をしている。
「……潰す」
8点の大量リードを貰っても、帝東の先発・飛鳥の集中は切れない。緩む事なく、南十字打線に立ちはだかる。
キン!
「ファール!」
この回先頭の紅緒に対しても、逃げる事なく勝負を挑んで仕留めにかかる。大量失点を喫した直後の打席、自分自身を奮い立たせるように紅緒は食らいつくが、前に飛ばず追い込まれる。
(……あんたなんか、恐るるに足らずよ!)
飛鳥は左アンダーからの角度を生かし、左打者の紅緒から最も遠いクロスファイアーのスライダーを投げ込んだ。
(届く!)
並の打者なら腰を引くような背中越しの角度のスライダーも、紅緒にはしっかり見えていた。右手一本で払いのけるように流し打とうとする。
「痛っ!」
しかし、右肩の故障がついに打撃にも影響した。右腕が伸び切らず、バットは空を切る。この夏初の三振を喫した紅緒は、そのまま肩を押さえて打席にうずくまった。
「おいおい、大丈夫か?」
さすがに心配になった大友が紅緒に声をかける。紅緒は涙を流して呻くばかりで、起き上がる事ができない。
「おい、紅緒!」
「大丈夫か!?」
南十字学園ベンチからは譲二と哲也が飛び出してくる。幼馴染2人に見守られながら、紅緒はバックネット裏から出てきた担架に運ばれていった。
「ふーん、品田紅緒ちゃんは肩を痛めていた訳ね。この先に影響出ないと良いねぇ、何せあんだけの才能は身長込みでも中々得難いからねぇ」
前島監督が「なぁ?」とベンチに居る部員に声をかけると、部員達は笑顔で「はい、そっすね!」と答えた。帝東はすっかり、南十字学園を見下ろしていた。
(……サザンクロスの、大黒柱が折れた。ボキボキに。)
退場した紅緒を見ながら、大友が内心で呟く。
(油断は禁物
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