第三十話 愛してるぜ
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グランドを見ていた。まるで、結果が分かってるかのように。
「その、狙い球って……」
「決まってるじゃないか、品田がここまで頼ってきた球、自分自身のプライドを賭けた……」
カァーーーン!
グランドから、金属バットの高い音。
左中間を一瞬で切り裂いていく、猛烈な弾丸ライナー。
「……ストレートだよ」
前島監督の頬が緩んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「おっしゃー!」
会心のタイムリーツーベース。二塁ベース上で大友は自軍応援席に向かって拳を突き上げる。
3-2のフルカウントになって投げてきた、紅緒渾身の143キロを確実に捉え、先制点をもたらした。
「「「おーおとも!おーおとも!おーおとも!おーおとも!」」」
帝東応援団はやんややんやの大喝采。
幸先のいい展開に大いに盛り上がり、段々と顔が青ざめる南十字学園ナインの焦燥感を増幅させる。
<5番ショート佐武くん>
2-0となってなおも無死二、三塁のチャンスに、打席には帝東一のイケメン選手佐武。肩で息を始めた紅緒の姿に嗜虐的な顔を歪ませる。
(渾身のストレートを打たれた後に投げる球はァ……)
佐武は、監督の言いつけを守る。狙うのは緩いカーブ。
(このカーブしか無いっしょォ!)
カァーーーン!
狙い澄ましたように高めに浮いてきたカーブを引きつけ、まるでお手本のような流し打ちでライト前に叩き返した。
「ストップ!ストップ!」
「おーっととと」
先ほどのリプレイのような好返球が紗理奈から返ってきて、二塁ランナーの大友は三塁に止まるが、一点追加して3-0。クリーンアップの三連打でなおも攻撃が続く。
(……もしかしたら、思ったより攻略に時間かからんかもなぁ)
前島監督は先ほどからサインを殆ど出していない。見ているだけで点が入っていく展開に、ニヤニヤが止まらない。
<6番ファースト楠堂さん>
無死一、三塁で、楠堂が打席に入った。
187センチの大女。体に厚みもあり、打席にデンとそびえ立つ。
「……これは気をつけた方が良いですね」
「1年だろ?こいつ。でけぇなぁ紅緒ちゃんに身長分けてやって欲しいよ」
南十字学園のブルペンでは姿が表情を強張らせ、権城が目を丸くする。
「この楠堂も、去年のシニア日本代表ですよ」
「へぇ、じゃあ俺の後輩に当たるんだ。そりゃ凄そうだな。」
権城は呑気に言うが、準決勝までに既に本塁打三本、打率は五割。楠堂はスーパー一年生の名を欲しいままにしている。
「…………」
楠堂は、自分より高い所に居るはずの紅緒を、むしろ見下ろすように落ち着いて構える。
それが紅緒には癪に触る。
(こいつ……何偉そうな顔してやがんのよ
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