第二十九話 打倒サザンクロス
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」
「ふーん?」
権城が紅緒の腕を掴んで持ち上げると、肩のラインより上でまた紅緒が顔をしかめた。
権城はため息をついた。
「……痛いの肩の裏?そりゃ自分一人じゃ上手く湿布も貼れないよな」
「…………」
「良いからうつ伏せに寝ろよ、俺が貼ってやるから。」
もう紅緒は抵抗せず、言われるがままにベッドに寝た。権城は紅緒の小さな背中の、肩甲骨の裏に丁寧に湿布を貼った。
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「で、いつから痛くなったの?」
「五回戦の、五回くらいから」
「で、気にせず投げてたら、バカにならなくなってきたと」
「…………」
紅緒はむすっとして、答えようとはしなかったが、権城にはその症状の程度が推し量れた。
例え相手がストレートを狙っていても、終盤のピンチに紅緒が変化球で攻めるなんてありえない。変化球を初球から使っていく事にすら抵抗があったくらいなのだ。昨夏などは、あの帝東打線に対しても終盤まで速球勝負して、スタミナが切れてもなお相手のバットを押し込んだくらいなのだ。それほど拘りのあるストレートを投げられないくらいなのだから、中一日で回復するものとも思えなかった。
(何より問題なのは、そうやって騙し騙し投げてる変化球が高めに浮いてる事だよ。帝東打線はそんなので誤魔化せねぇぞ……)
表情を曇らせる権城に、紅緒は口を尖らせた。
「まさかあんた、紗理奈に言うんじゃないでしょうね?」
「は?言うだろ普通。」
「言わなくて良い!てか、言うな!」
紅緒は激昂して、自由に動かせる左手で権城の襟首を掴んだ。
「帝東に勝てるのはアタシだけよ!アタシが投げないとどうすんの!?余計な事したらぶっ飛ばすよ!?」
「あぁ、確かに帝東に勝てるとしたら紅緒ちゃんだろうな……」
権城は自分の襟首を掴む紅緒の手を締め上げて、目をカッと見開いた。
「万全のお前だったらの話だよ!今日みてぇに高めに変化球が抜けてるお前で勝てる訳ねぇだろうが、調子乗んな!それになぁ、俺だって試合で投げる為に練習してきてんだよ!ケガ人にマウンド任してなぁ、健常者の俺にベンチで見てろってか、ええ!?投げるのが当たり前のように思いやがって、ベンチで見てる俺の気持ち考えた事あんのか、えーっ!?」
「…………」
大声で怒鳴られて、紅緒は言い返す事もなくうつむいた。言い返される事を想像していた権城としては、これは意外な反応だった。紅緒は肩を震わせ、しゃくり上げながら泣き始めた。
「分かってるわよぉ……でもあんたにはあと一年あんじゃん……アタシ、もうこれで最後よぉ……譲二や哲也と野球するの、これで最後……これまであいつらに偉そうにしてて、弱いトコ見せられるわけ無いじゃん……やるだけやらせてよぉ……」
「……
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