第一章
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「あそこ美味しいのよね」
「そうそう、特に」
食べ物の話になると奈緒も乗ってきた。彼女も美香と同じ笑顔になっている。
「夏はお刺身に冷奴、冬はお鍋」
「まだお鍋いけるわよね」
「ええ、まだまだね」
どうやら鍋物が好きらしくさらに明るい笑顔になる奈緒だった。
「いけるわよ。じゃあ大魔神に行く?」
「そうね。何頼もうかしら」
「飲み放題でそれで鴨鍋」
奈緒の提案はこれであった。
「これでどうかしら」
「悪くないわね。いえ、むしろ」
笑みで考える顔と声であった。
「かなりいいわね。それで締めは」
「決まってるじゃない。雑炊」
「そうね。じゃあ早速」
「大魔神ね。着替えて行きましょう」
「ええ」
こうして二人は笑顔で卒業祝いの御馳走と美酒を楽しんだ。二人して日本酒をこれでもかという程度しこたまに飲み次の日は二日酔いだった。その二日酔いも心地よい思い出として美香は就職、奈緒は大学だった。美香が就職したのは地元の企業の事務だった。彼女の言葉通りだった。
地味なOLの制服に身を包み。時間通りに出社して机で書類の整理や計算をしてお昼御飯を食べて休んでからまた仕事だ。時々残業がある。そうしたごく普通のOLとしての生活を可もなく不可もなく過ごしていた。本当に何事も可もなく不可もなくだった。
人間関係においてもそれは同じだった。明るく要領のいいところのある彼女はこれといって嫌われてはいなかった。皆の中にも自然に溶け込んでいた。
「昨日のドラマだけれどね」
「あっ、あの韓国のやつですよね」
「そう、それそれ」
化粧の濃い中年のパートのおばさんが美香の言葉に笑顔になる。
「あれ面白いでしょ」
「はい、いつも録画で観ています」
「録画なの」
「まずは同じ時間のフジのドラマ観て」
「フジ!?ああ、あれね」
おばさんは美香の言葉からあることを思い出して納得した顔になる。白く半分プレハブみたいな造りの休憩室で皆それぞれ休んでいる。自動販売機の紙コップのコーヒーや紅茶を飲んだり煙草を吸っていたりする。おばさんは煙草を吸い彼女の向かい側にいる美香は紙コップの紅茶を両手に持っていた。そうした状況で話をしているのだった。
「あの人が出ている」
「そう、あの人です」
あの人だけで話をするのがおばさんだが美香はそれに見事に合わせていた。その辺りの要領が実に見事であると言えるのだった。
「あの人好きで」
「格好いいわよね」
おばさんは目の前の灰皿に煙草の灰を落としながら笑顔で述べる。
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