砂浜の文字
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何処かわかった。
「あそこか」
幸一に案内されて行ったあの場所だ。流れが穏やかで人が少ない穴場ということで案内された場所である。紗代はこの時はわかった。偶然と言うべきかまぐれと言うべきか。
すぐにそこへ向かった。すると向こうから声が聞こえてきた。
「おおい、こっちだ」
幸一のものであった。紗代はそれを聞いて足を速めた。そして幸一の待つその海水浴場へと着いた。
「おめでとう」
紗代はそこへ着くと幸一に対してまずこう言った。
「合格したのね」
「ああ」
幸一はにこりと笑って頷いた。見れば夏に会っていた時とあまり変わってはいない。服は秋のものになったがそれだけであるように思えた。相変わらず子供っぽい笑顔であった。
「何とかね。上手くやれたよ」
「その言い方って運だったみたいね」
「全然わからなかったからな」
そう言って口を尖らせてきた。
「あれで合格したんだから。奇跡だよ」
「まあそれでも合格したからいいんじゃない?」
「それはそうだけれど」
「運も実力のうち、そうでしょ」
「そうか」
「そうよ。ここは素直に喜びましょう」
「そうか。そうだね」
「ええ」
幸一はそれに従いにこやかな笑顔に戻った。本当に子供のそれのように曇りのない笑顔だった。見ている沙代の方もそれを見て和やかな気持ちになった。
「それでね」
「うん」
一呼吸置いてから幸一に尋ねた。
「何でここに呼んだの」
「ここに」
「ええ。何か用があるのよね」
「まあね」
彼はそれを認めた。
「ちょっとね。言いたいことがあって」
「何かしら」
やはり彼女の勘は鈍かった。少なくともある方面に関しては。ここでわからなかったことが何よりの証拠であった。
見れば周りには誰もいない。幸一は意を決した。
「俺達これからすぐ近くにいるよね」
「大学が近いしね」
「それでね。だから言うけれど」
次第に顔が赤くなってきた。
「あのさ」
「ええ」
ここでもまだ気付かない。
「ええと。それでね」
モジモジしてきた。幸一は何を言えばいいのか前以て考えていたがそれを口に出すことができないでいた。それでも言わなくてはならない。言いたい。だからこそ困っていた。
しかし紗代はそんな幸一のことがわからずキョトンとしていた。そして軽はずみにこう言ってしまった。
「何か私に言いたいことでもあるの?」
何もわかっていないことを自ら証明したような言葉だったがそれが幸一にとって後押しとなってしまった。幸一はそれを聞いて鳩が豆鉄砲を食らったような顔をした。
「えっ」
「言いたいことがあるのなら言って。何でもいいから」
「う、うん」
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