7部分:第七章
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第七章
「言ったんだよ。俺の蕎麦、ってところに反応してね」
「そういうことだったのかい。成程ね」
「わかったから蕎麦も完璧になったんだよ」
二人でやってこそなのだった。
「完璧にな。もう俺からは言うことないよ」
「そこまで言うかい?」
「言うよ。あんた達の蕎麦は最高になったからね」
客は二人を褒めるのにやぶさかではなかった。
「けれどそれで満足しちゃいないだろう?」
「当たり前だよ。完璧の先にはまだあるんだ」
忠義は強い声で言うのだった。
「完璧の中の完璧ってやつがよ」
「それをさらに目指していくっていうんだね」
「蕎麦の道はよ、永遠さ」
彼の持論であった。
「果てしないんだよ。だからこれでいいってことはねえんだ」
「それを聞いて安心したよ。じゃあね」
「おう、また来てくんな」
ニヤリと笑って彼に告げた。
「今以上に美味い蕎麦食わせてやるからよ」
「楽しみにしてるよ」
これが彼等の若い日のことだった。それから店を持って随分と経った。子供達も産まれて一人が跡を継ぐことになっている。その子と孫達に二人で蕎麦が何たるかを仕込んでいる最中でもある。
この遥かな昔のことを思い出したうえで。忠義は店の中の掃除を続けながら和栄に対して言うのだった。
「あの時はわしも本当にわかっていなかったよ」
「私もですね」
和栄はそれは自分もだと言うのだった。
「本当にね。後片付けだけしていればいいって」
「けれどそういうのじゃなくて」
「二人でやるもんだったんですね」
「何でも。店のことなら」
その時にわかったことをここでも話すのである。
「そうするべきだったんだ」
「ですね。わかってからお店を持てて」
「今のわし等がある。あそこであの人が来なかったら」
「どうなっていたかわかりませんね」
「その通りだよ。さて」
忠義はここで掃除を終えた。和栄も。
「掃除はこれで終わり」
「そうですね。今日はこれで終わりですね」
「終わったよ。けれど明日は明日であるから」
「また頑張りますか」
「明日はあの人も来るそうだしな」
そして忠義はここで話した。
「あの人がな。久し振りに来るそうだよ」
「あら、本当に久し振りですね」
和栄は忠義のこの話を聞いて目を輝かせて顔をあげるのだった。
「何か最近来られてなかったけれど」
「ちょっと入院していたらしいな。ほら、脚が悪くなって」
「ああ、それでですか」
「脚もなあ。歳になればどんどん悪くなるからな」
忠義はふと自分のことにもあてはめてそのうえで悲しいような残念な顔になる。
「わしもなあ。昔に比べたら」
「あらあら、お爺さん」
和栄はその悲しいような残念な顔になった夫に対して言うのだった。
「そんなに悲しんだらいけ
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