2部分:第二章
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第二章
「お蕎麦。あるかい?」
「何がいいんだい?」
「まずはかけ」
最初に頼んだのはそれだった。
「そしてざる。もらおうかな」
「二つ頼むのかい?」
「蕎麦はあれだよ」
その禿げた男は言うのだった。
「かけとざる。両方食べてやっとわかるんだよ」
「へえ、それでやっとかい」
「そうだよ。やっとだよ」
彼はさらに言う。
「やっとわかるんだよ。両方食べてね」
「お客さん。通かい?」
忠義は目の前に座っているその男に対して不敵な笑みを浮かべながら尋ねた。
「ひょっとして」
「通とかそういうのじゃないけれどな。蕎麦は好きさ」
偉ぶらずこう返す男だった。
「子供の頃からな。蕎麦と鰻には五月蝿いのさ」
「へえ、三河町の半七みたいだねえ」
捕り物の有名な主人公である。人情を解するが下手人を問い詰める際は声にドスがこもる。幕末の江戸において活躍した岡っ引きである。
「それだと」
「鰻はちと高いからね。食うのは大抵蕎麦だね」
この辺りは懐の事情と相談であるらしい。
「やっぱりね」
「通だねえ。蕎麦とはね」
「だから通じゃないんだって」
まずは明るく気さくに話をするのだった。
「ただの好きってやつさ。まあそれよりもね」
「かけとざるだね」
「そう、それね」
何はともあれそのかけとざるであった。
「それもらおうか。早くね」
「あいよ」
こうして忠義はすぐに蕎麦作りにかかるのだった。蕎麦をすぐに茹ではじめる。手早く済ませそのうえで一つをかけに、もう一つをざるにして出す。そのうえで客に出すのだった。
「へいお待ち」
「あいよ」
彼はすぐに箸を取ってまずはざるを食べる。しかし蕎麦を口に入れた瞬間すぐに僅かに難しい顔をした。
しかしざるをすぐに食べ終えすぐに後で出されたかけを食べる。それを食べても僅かに難しい顔をしてそれから食べるのだった。
そうして食べ終えたからだ。彼は言うのだった。
「美味いね」
「そうだろ、伊達にこうして屋台で頑張ってるわけじゃないよ」
忠義は威勢のいい言葉で彼に応えた。
「もうすぐ店も建つぜ」
「まあそれだけのものはあるかな」
客は彼の言葉を聞いて述べた。
「それだけはな。あるけれどな」
「何か引っ掛かる物言いだね」
忠義は客の言葉に何かが歯に挟まった言い方なのを感じてまた言った。
「どうしたんだい?うちの蕎麦に何かあるのかい?」
「あれだよ。まずはいい蕎麦粉使ってるね」
客が最初に言ったのはこのことだった。
「蕎麦自体が。いいもんだね」
「おうよ、まずは素材だよ」
彼はここでは不敵な声で彼に応えた。にやりと笑ってさえ。
「素材な。長野のな、そこで選んでなんだよ」
「そうだよな。いい蕎麦粉だよ」
彼はまたこ
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