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カウンターストライクep1
作者:キー

コンコン、とノックの音が響く。回転式の椅子に腰掛けた男性は手元のコンソールを操作して扉を解錠した。
小さな解除音が鳴った後間もなく、白銀の髪を靡かせながら一人の女性が入ってきた。

「失礼します。支部長、例の青年を発見致しました。コンタクトの許可を。」

男は報告を聞き、身を乗り出し気味にしながら興奮したように言った。

「そうか!やっと見つけたか!彼は最も重要な人物の一人だ、失敗は許されんぞ。」
「分かっています・・・接触してよろしいですね?」
「あぁ構わない。よろしく頼むぞ、恭くん。」
「了解しました。では、失礼します。」

[恭]と呼ばれた女性は丁寧に一礼した後、部屋から退出した。
扉が締まり、足音が遠ざかる。
男は机の引き出しから資料の束を取り出して捲りながら呟く。

「そう・・・彼はとても重要だ。我々にとって、そして人類にとってね。」

男・・・国際Dips対策総司令軍日本支部長、[如月厳《きさらぎ げん》]は資料を置いてコーヒーを啜る。
その資料には、鋭い眼光を携えた青年の顔写真がクリップで留められていた。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
一人の青年が歩いていた。
その眼光は鋭く、ただ前だけを見据えている。
一度視線を横に向けると、飢えて倒れている若者やボロい布切れを羽織って蹲っている老人、金品や食料を強奪している悪人が蔓延っている。
危険の赤も、安全の青も示さない信号機。今にも崩れそうなビルディング。コンクリートがひび割れた道路。この退廃した都市が現代日本だと、誰が信じられるだろうか?しかし、事実は無情にも揺らぐことは無かった。

「・・・・・・・・・・」

青年は、ただ黙々と歩き続ける。
このような現実を受け入れて、それでも諦めまいと進み続けた青年の目にも、諦めの色が浮かび始めた。
その時、ある一つの音が響いた。
まるで電流が弾けるかのような音。一瞬だが、青年の心に波を立てるには充分であった。

「まさか・・・Dips・・・・・・!」

青年が呟くと同時に耳障りな轟音が鳴り響いた。
ビル群の間にショートが走り、辺りの空気が変わる。
蹲っていた老人が何かを呻き、悪人は手にした小銭を落とした。
その金属音を皮切りに、道にいた人が一斉に走り出す。
やがてショートは激しくなり、けたたましい咆哮が響く。
青年は、その場に座り込んでしまった。
巨大な体躯と、無数に伸びる触手が煙の中から現れる。

その瞬間!
青白く光る刃が、青年に迫っていた一本の触手を切り裂いた。
眼前の光景に目を見開いた青年の真横に、白銀の髪を靡かせた一人の女性が立っていた。

「あ、あんた、もしかして・・・」

絶句する青年に、女性は言葉を投げかける。

「貴方・・・・今、生きてる?」
「生きてるって・・・あんた何を・・・」

女性は青年を一瞥し、言い放った。

「まぁ、いいわ。あなたは生きていてもらわないと困るもの。」
「・・・・・は?」
「そこで見てなさい。人類の・・・・反撃を!」

そう言うと女性は、右手に持つ鎌を振りかざした。

「【ア・ライド】!」

女性が叫んだ瞬間、青白い光が瞬いた。
その光は段々と収束しながらある形を作り出し始める。
光は機械的なディテールを持つボードに変化した。
女性・・・[八雲 恭《やくも きょう》]はそのボードに飛び乗るとあっという間にビルの上まで飛び上がった。

「あのボードが推進力を生んでいるのか・・・・?」

鮮やかな軌跡を描きながら上昇する恭に、青年は目を奪われる。
次第に煙が晴れ、ビル群の間から巨大な異形の怪物がその姿を現す。
怪物から無数の触手が伸び、ボードに乗った恭を狙う。

「ちっ・・・・・気色悪い触手だな。」

恭は呟くと、巧みに姿勢を変えながらボードを操り触手の猛攻を躱す。

「す、すげぇ・・・・避けきれない触手は切り裂いているのか・・・!」

青年の見切り通り、恭は空中で激しく動き続けながらも避けられるものとそうでないものに的確な判断を下していた。
避けられるものは避け、避けられないものは手にした鎌で捌く。その全ての行動は前進に繋がっていた。

「これじゃキリがないわね・・・・・。」

恭は呟くと鎌を手元で回し始めた。すると鎌は青白い光を放ちなから巨大化し始める。

「{廻刃の鎌《ローテート・サイス》}!」

恭が鎌を水平に構えるとボードが捻りを加えながら回転し始め、刃の嵐が無数の触手を切り裂く。
恭は触手を切り刻むと、回転の勢いをそのままに放物線を描きながら怪物との距離を詰める。

「{地獄への誘い《インビテーション・ヘル》}!」

恭は一筋の光を描きながら勢いよく怪物に肉迫する。
怪物の腹を巨大化した鎌で水平に切り裂くと、怪物はけたたましい叫び声を上げて消滅した。
立ち尽くし、言葉も出ない青年の前に恭が降り立つ。

「すげぇ・・・・すげぇよ!あんた、A・P《アクティビティ・プロテスタント》だろ!?」
「あら、知っていたの。なら話は早いわね。」
「その鎌にボード!あんたがA・P最強の抵抗者《プロテスタント》、死神・八雲恭!」
「そんなことはいいから、話を聞きなさい。」

恭は鎌を握り直して青年を威嚇する。すぐさま黙る青年を見て満足げに頷きながら言葉を紡ぎ始めた。

「お察しの通り、私は国際Dips対策総司令軍日本支部実働部隊長、八雲恭です。
霧野乱さん、我々には貴方を保護下に置く準備が出来ている。共に来て下さい。」
「は・・・・?あんた、何言って・・・・・」
「貴方に拒否権はありません。貴方には国のため、人類のために戦う義務があります。」
「いや、いやいやいや!ちょっと待てよ!どういうことだ!?」
「・・・・・・・全くごちゃごちゃとやかましいわね。来いと言っているのが聞こえないの?」

青年、[霧野乱《きりの らん》]の問いに明らかな苛立ちをみせる恭。
恭が乱の腕を掴もうとしたその瞬間、恭の鎌とボードが激しく発光し一つに収束する。

「ん・・・なぁ!?」

驚く乱の腕を掴んだまま、恭は溜息を零した。
その光は、人間へと姿を変えていた。

「私一人で十分よ、引っ込んでなさい。」
「そうはいかない。納得のいく説明も受けずにホイホイ着いていくような奴がいるものか。」

ピシッとしたスーツに身を包んだその男性は、かけていた眼鏡を指で抑えながら言葉を返した。

「我が主が失礼した、霧野乱くん。私は[伊坂秋《いさか しゅう》]。そこの八雲恭と契約を結んだ特異的存在だ。」

男性はそう名乗ったあと、深々とお辞儀をした。

「あ、あんた・・・光の中から現れたよな?そして、鎌やボードが変わった光から・・・?」
「・・・・・ふむ、判断力は上々・・・・と。」

秋は呟くと、笑みを浮かべて言葉を続ける。

「えぇ、その通りです。まあその辺も説明をしますので、ご安心を。
ひとまず、我々の本拠地に来て下さいませんか?その道中に並行して説明いたします。」

そう言うと秋は、いつの間にか乱の腕を離していた恭に向き直る。

「ざっとこんなものだ。」
「・・・・・・ちっ
まあ、いいわ。そこのメガネの言った通りよ。
私達と共に来て、霧野乱。」

恭の言葉を受け、乱は震えていた。
怯えではない。武者震いだ。

「あんたらと一緒に行けば、やつらと戦える・・・ってことか?」
「えぇ、その通りです。あなたは人類の反撃において、重要な存在となれる。」
「よし・・・・決まりだ!俺を、本拠地とやらに連れて行ってくれ!」

確固たる意思と覚悟を持ち、乱は二人を見つめた。
その瞳に諦めの色など、微塵もありはしなかった。


連載中全 1話
▼ジャンル / キーワード
SF, シリアス, 近未来, 戦士
反撃 Dips
▼最終掲載日時:
2013/09/30 00:41

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