のつぶやき |
2015年 02月 11日 (水) 15時 30分 ▼タイトル 暇潰25 ▼本文 改善案を溜めながら、アレも変更コレも変更と色々修正しなければいけません。アビィ編、あとちょっとで完結です。 もし幻の定期読者が実在する場合は、完全版にご期待ください。 = = ――時は遡り先日。場所は『日本国立天岩戸異能者専門学校』――略称『天専((あません))』。 天専というのは、具体的には学校とそれに付属する土地、施設、機関及び在学生などのもろもろすべてを含んでの天専だ。この組織は一種の独立行政機関であり、現在日本で最も大きな権力を持った独立組織である。形式的には天専は『岩戸機関』という日本政府の下部組織だったが、現在ではその役割の大きさから共存関係といえるほどにその発言力が釣り合っている。 その天専は、外部からの悪意の侵入者を極力避けるために丸々一つの『島』を所有している。その島こそが天専の総本部であり、法師たちがモノレールを使用したどり着こうとしていた場所だ。 表面積8000?――これは四国の半分より少しばかり小さい程度の大きさ――を誇るその島は、言うまでもなく元々そこに存在した島ではない。これは、日本の最新の科学技術によって数十年前に作られた世界初の大型人工島((ギガフロート))なのだ。 その人工島に関する驚愕の真実の数々は部外者どころか内部の人間さえもすべてを知る者は少ない。そんな場所の中でもひときわ大きな建物が存在する。それこそが天専の校舎だ。どこか古めかしくも美しい、大正時代を彷彿とさせる石造りの造形であるそれは、校舎以外の近未来的な施設と比べると浮いている。しかしその建物にはどこか重みが感じられ、周囲の建物にはない威厳を放っていた。 その建物に入るための巨大な校門の前に立っている初老の男性が一人。全身をスーツで決めて、教師というよりサラリーマンと呼んだほうがしっくりくる彼は、誰かを待つようにじっと動かなかった。 やがて時間がたち、彼はその視界に目的の人物が近づいていることをに気付く。 彼にとっては見覚えのある青年と、年端もいかぬ浅黒い肌の少女。 少女は見たことのない周囲の建物に興味半分、不安半分といった風にきょろきょろ見渡す。だが、隣を歩く青年からはぐれないようにと手だけはしっかり握り合っていた。まるで父か兄弟に甘えているようなその姿はどこか微笑ましい。 青年のほうはこちらに気付き、笑顔で手を振った。少女は見知らぬ大人である彼のことを警戒するように青年の後ろに隠れてしまったが、暫くしてその警戒を緩めたらしい。こちらに近づいてくる。 「中村先生、お久しぶりです。いやぁ、相も変わらずご健勝なようで……直接顔を合わせるのは卒業式以来ですかね?」 「そうなりますね……君も息災でなによりです。この学び舎を出てわずか二年だというのに、君たちの騒がしさがずいぶん昔のことのように思いますねぇ」 昔を懐かしむようにしみじみと語る彼――中村((なかむら))一門((いちもん))に、じじ臭いなぁ、と法師は内心で苦笑した。 天専は中・高・大のエスカレータ式であり、中村先生はその中学部で法師が特に世話になった恩師である。そもそも今の事務所のメンバーが揃ったきっかけは、彼らが入学一年目に彼の担当するクラスで知り合ったからだったりと、実は事務所設立の大きなきっかけにもなった人だ。 「梅小路くんたちの名前は……色々とよく耳にしますよ。良し悪しに関わらずというのが残念ですが、それもまぁ元気な証拠ですし」 いたずらっぽく笑う中村先生、法師は気まずそうに目線をさまよわせた。 間違いなく事務所の悪評も届いている。そう思うとかなりばつが悪い。悪評のほとんどは法師でなくその親友((悪友ともいう))たちの奇行や被害なのだが、それでも事務所長がそれを抑えきれていないのは確かである。そして、おそらくその噂の一部にBFの存在があることを考えると更にお腹がキリキリ痛くなる。 「いやー耳に痛いですね……何せ店を出すときに付いてきたのがあのメンツですから、俺ももう纏めきれなくて財政が………今日もタダ働き同然ですしねー」 「はは……まぁ、マイナスにならないだけマシだと思いなさい。校長の好意で、駅で派手にやらかしたのも町での戦闘もお咎めなしだそうです」 「助かります……」 がくりとうなだれるように肩を落とした法師の横で、アビィが中村先生の顔色を窺う。その視線に気づいた先生はにこりと微笑んだ。 「おっと、すみません。私は数年前に彼に勉学を教えていた――」 「ナカムライチモン。よくノリカズと一緒にいるのを『視た』よ」 「おっと、これは……」 中村先生は驚いた表情を見せた。彼も事前に少女がかなり高度な読心能力を持っていることは聞き及んでいたが、すでにこちらの情報を持っているとは思わなかった。法師が横から注釈する。 「先生がこっちに手を振ったときには『意識結合』で必要な情報を読み取ってたみたいです」 「なんとまぁ……この年齢で既にそこまで異能をモノにしているとは末恐ろしい……」 「………っ」 恐ろしい、というワードにアビィの体がびくりと震えた。 怯えた表情を見て法師はすぐに事態を察した。化け物、恐ろしい、などは彼女にとっては一種の禁句だ。その能力の強さゆえに周囲から人としての評価を受けなかった彼女にとってそれは最も恐れるべき拒絶の言葉に他ならない。 無論、中村先生はそのような意図で言葉を発したわけではないが、彼女の心はただそれだけでもひどく震えるのだろう。 「ん……ノリカズ、わたし……!」 ここにいてはいけないのか、と言わんばかりに涙をためたアビィの頭を優しくなでながら宥める。 「大丈夫だよ、アビィ。先生は君を怖がってるんじゃない。ただ、君の力が将来に悪いことに使われないかが不安なだけだ。そして、悪いことに使われないようにいろんなことを教えてくれるのが、あの先生の仕事なんだよ?」 「いろんなことを……?普通になるためのことも?」 「もちろんさ。だからアビィも怖がらないで、さっき言ったとおりに口に出してごらん?」 不安は全て拭い切れないのか、アビィはまだその目に不安を色濃く残していた。だが、一度目をつぶった彼女は大きく息を吸い、はき出し、改めて法師の手を強く握った。心細さを紛らわしてあげるように、優しく握り返した。 「………ん」 こくんと頷いたアビィは、相変わらず片方の手を法師と繋げたままに中村先生の方へ向かう。 ここに至るまでの様々な障害は、法師たちの助力によって見事乗り越えた。だが、法師はこの一言だけは彼女が直接やるべきだと思う。彼女は自らこの道を求めたのだ。そのための助力はもちろんするが、その決断は彼女にゆだねられるべきだろう。 緊張からか、アビィの手のひらは既に手汗で湿っていた。その小さな手から彼女の心情が伝わってくる。だが、目を見れば恐怖を押し返すほどの覚悟が見て取れた。 やがて、彼女は意を決して声を張り上げた。 「……あ、あのっ!!私、この学校に入学したいです!!私が知らないいろんな世界のことを、教えてくださいっ!!」 それが彼女にとっての精一杯。頭を下げるなどの礼儀など習ったこともないアビィの、能力を介在しない口からのお願い。 それを静かに聞き届けた中村先生は、朗らかに微笑んだ。 「我らが『天岩戸専門学校』は、ベルガーであれば何人((なんびと))であろうと決して拒みません。――ようこそ、アビィちゃん。わが校は君の入学希望を快く受け入れます」 天岩戸専門学校の最も重視する指針。それは――『異能者((ベルガー))であるからという理由をもって教育を受けられない人間がいることはあってはならない』、である。 |