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2015年 01月 27日 (火) 00時 21分
▼タイトル
暇潰22
▼本文
キャラクター同士を会話させるときっていつも妙に気を使います。割としゃべらせていたいんですけど、物語の進行を考えると程よい所で切っておく必要があるし、逆にどう話を繋げていくか悩んだり。

 ※ ※ ※
 
「に……逃げろぉぉぉぉぉーーーーーーッ!!!」

 直後、蜘蛛の子を散らすように逃走した三人の後ろにあったモノレール駅に鉄の巨人が轟音を立てて突入した。

「ワーハハハハ!馬鹿め、日本男児たるものが二脚重機の運転免許を持ってないと思ったか!!」

 モノレール駅はそれなりに大きな駅で店舗などもいくらかあるが、基本的には入り口から改札までは直通だ。天井の高さが約6メートルとそのまま入るには足りないが、この「ナガト八式」は二脚重機の中でも珍しく脚部にラピッドホイールという移動用タイヤが内蔵されているため、上手く姿勢を取ればギリギリで突入可能だと踏んでの行動だった。

 若干天井を擦ってはいるものの、目論見通りだった。駅内部には非ベルガーの武装兵がいたようだが、残念な事にナガト八式の速度と装甲に対抗できるはずもない。皆が皆、悲鳴を上げて進路から飛び退いた。
 土木作業用に発売されてはいるが、最早これは一種の兵器である。
 後で色々と言われるかもしれないが、まぁその時はテロリストの所為にすればいいだろう。

「車よりも全然見える景色が違うんだ!不思議!」
「公道を乗り回せないのが残念でしょうがないな!わは、わはは!!運転するの1年ぶりだけど!」
「一年前は何で運転したの?」
「事務所の資金か完全に底を尽きたから土木のパートアルバイトだ!意味はまた今度教える!」

 しかし運が良かった、と法師は苦笑いした。
 工事現場に置きっぱなしにされていた作業用重機の中に悠然とたたずんでいたこの重機がなければ、もっと苦戦する羽目になっただろう。ちなみに良い子には教えられない方法で操縦席を空け良い子には教えられない方法でキー無しにエンジンを起動させたので、法的には完全に泥棒である。
 だが大丈夫。その罪を帳消しにする方法はいろいろと考えているからだ。

 改札までやってきた法師は、二脚重機のアームを巧みに操って改札を叩き壊してホーム内に侵入する。本来は防犯用の進路妨害システムが存在するのだが、今回は予め無茶をする旨をBFを通して天専に伝えてあるので壊しても問題ない。

「あれに乗れば後は天専へ一直線だ!舌を噛まないように口を閉じててくれよ!」
「う、うん!」

 モノレールは最低限の人員を残して後は全てオートメションになっている。その懸垂式モノレールがドアを開放した状態で二人を待っていた。操縦席のハッチを空け、アビィを抱っこした俺はそのまま飛びだして、モノレールに走る。
 あとほんの十数メートルだ。

 が、相手はそれで終わるほど諦めの良い相手ではなかった。
 背後でアイテールが不自然に収束している事に感づいた法師は咄嗟に背後を向いた。その瞬間、、収束したアイテールが空間を歪め、その中から何かが実体化する。

「テレポートアウト!……いたぞ、素体だ!」
「おのれ、先ほどはよくもやってくれたな……!」
「我ら三人の本当の力、見せてやろう!」
「む、空間転移(テレポート)持ちだったのか……」

 入り口付近にたむろしていた虎顎の刺客がもう追い付いてくるとは流石に予想外だ。
 しかも、考えうる限り最も相手にいてほしくなかった空間転移ベルガー。そう判断するなり、法師の行動は早かった。
 アビィを素早く片手抱えにし、開いた手を霊素銃へ。
 既にアイテールの充填を終了させてあるそれを腰だめに発砲。発砲の反応で浮いた銃身のまま更にもう一発。
 両方とも狙いを定めてから放つまでにかかった時間は0,1秒以下。
 これで狙い撃ちならば恐るべき早撃ちだったのだろう。

 だが、その一瞬の間に3人は既に銃の射線上を離れて法師たちを拘束しようと動き出していた。
 初弾は壁に命中し、もう一発は天井部分に。これでは取り敢えず牽制に撃っただけに過ぎず、その程度のこけおどしは3人に通用しない。

「ハッ!当たるかそんないい加減な射撃!さあ、我が念動力で拘束してくれる!」

 彼女の念動力が浮かせることのできる最大重量は10トンを超える。ナガト八式は重量と不意打ちの驚きで対応し損ねたが、この至近距離で外すほどに彼女は間抜けではない。地から足を離してしまえば、ただ分身するだけが能のベルガーなどどうとでも料理できる。
 意識を素体と法師に集中させ――ようとした瞬間、念動力エージェントに予想だにしなかった禍が降りかかった。

 突如、天井から凄まじい水圧の水が噴射された。

「ぶわぁっ!?あぶぶぶぶぶ!?」

 水は器用に彼女の顔面に直撃し、使用する筈だった念動力は集中力を保てずに力を霧散させた。
 天井に放たれた霊素銃の射撃。それが、天井のスプリンクラーを吹き飛ばしていた。折角の出番が台無しになった念動力エージェントは何が起きたのか分からずびしょ濡れにされた。

「ならば、私がっ!!」

 もう一人の女エージェント。未だに何の能力なのかを明かしていない彼女の能力が炸裂する――前に、ジリリリリリリリリリリ!!!という強烈なベルが響き渡った。

「うぁッ!?ぐ、なんて音……!!」

 余りの煩さに耳を塞いだことで、使うはずだった異能が霧散。あっさりと無力化された。
 最初の一発が、火災報知機のボタンを撃ち抜いていたのだ。つまり、あの2発両方が相手を一時的に無力化するための作戦。だが、そんな2人の間抜けのカバーをするために、空間転移エージェントは既に2人の背後に回り込んでいた。
 丁度モノレールの出入り口との間を遮る位置になったことで、法師たちの退路が断たれる。

「西部のガンマン気取りもそこまでにしてもらうぜ」
「しまっ……!」

 彼の手に持ったスタンガンが、弾丸のような速度で法師の首筋に叩きこまれる――その瞬間。

『モノレールが発進します。危険ですから、白線の外へお下がりください』
「ふう、間に合ったな」
「モノレールって、あのぐるぐる回るの付いてないんだ。なんだか不思議」
「ああ、タイヤの事か?いや、パッと見には見えないだけでちゃんとついてるよ」

 反対側のホームから、極めて呑気な会話が聞こえてきた。

「………へ?」

 後ろを向くと、反対ホームには素体ことアビィと仲良し子好しで手を繋ぎながらモノレールに乗り込んだ法師の姿。
 ビー、と鳴るブザー。
 発進するモノレール。

 何が起きているのか分からずに、さっきまで目の前にいた法師の方を見てみると――

「……至極残念なことに、本物は駅の別の通路を通って天専行きのモノレールに辿り着いたよ。試しに空間転移で追い縋ってみるかね?」

 空間転移は座標指定を行うことで任意の場所へ移動する。つまり、高速移動するモノレールの内部にテレポート・アウトすることは不可能と言っていい。
 やや遅れて、自分たちが同時存在(バイロケーション)による分身に見事に踊らされていた事に気付いた3人は、怒りやら情けないならでその場に崩れ落ちた。
 既にアイテールとして崩れ落ちつつあるBFは、喋らないアビィのBFを抱えたままウィンクした。

「ナガト八式から下りた時には既にすり替わっていたのさ。馬鹿が見る豚のケツ、という奴だ」
 
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