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2015年 01月 26日 (月) 02時 01分
▼タイトル
暇潰21
▼本文
ステータス公開が流行っているらしいがそんな流れとこれは一切関係ありません。
おお、結構大詰めの所まで来てますね。そろそろアビィ編終了です。

 ※ ※ ※
 
 法師とアビィの目指すモノレール駅には、既に虎顎のメンバーと思しき人物がいた。
 先に町中にばら撒いておいたBFが彼等の様子を分析した結果、そう結論付けたのだ。男が一人に女が二人。なお、アイテールの塊であるBFはその後彼らに発見されて既に霧散している。

「ちっ……結局回り込まれてるんだからやってられないよな。さぁて、どう切り抜けるか……」

 車を乗り捨てアビィの手を取りながら駅前までたどり着いた法師は、建物の隙間から様子を見て舌打ちする。駅の内部までは見えないが、あそこは事実上の無人駅でこの時間帯は利用者も殆どいない。割と喧嘩をするにはもってこいの場所だ。
 だが、数にして三対一だ。アビィを守らなければいけないというハンデを考えれば実際にはさらに難易度は上昇する。加えて相手は恐らく手練れ。まともにやり合っては自殺行為だった。

「ノリカズ……」
「そんな顔するなよ、アビィ。何とかするさ」

 不安を隠しきれない顔で見上げてきた彼女の頭を優しく撫で、改めて作戦を練る。

(BFを大量生産して特攻させるって手もあるが、相手のベルガーが広域を攻撃できるとしたらこの見晴らしのいい場所では的になる。数だって俺の体力的に制限はあるから、これは駄目だな)

 付け加えるなら勿論生身で特攻するのも駄目。もっとも建設的なのは仲間に助けてもらう事だが、ティアを待つには距離が離れすぎているし、衛に至ってはまだ戦っているかもしれない。約一名間に合わないでもなさそうな奴がいるが、ものをぶっ壊すのが専門みたいなやつなので出来れば頼りたくない。
 なにより時間がない。既に法師とアビィが橋を突破したことは相手側に知られているのだ。このまま手をこまねいていると、今に虎顎の連中が押し寄せてくるに決まっている。

(警察……も、アテにできない。所持品は小物と霊素銃のみ。アビィの能力を利用すれば突破も可能かもしれないが……今の彼女にぶっつけ本番でやらせると、下手をすれば俺も巻き込まれる。不確定要素が大きい)

 もやもやと考えながら周囲に何か使える物がないかを探した法師は、そこであるものを発見した。

「待てよ……そうかアレなら突破できるかもしれない!」

 その乗り物――少なくともアビィは初めて目撃するそれ。
 鉄の外装を実に纏い二本の足で大地に立つ――今や二本の工事現場の主役であるアイツが。

「よっしゃ!アビィ、車より面白いものに乗せてやる!付いて来い!」
「ノリカズひょっとしてあれを動かせるの!?乗りたい乗りたい!早く〜!」

 まるで遊園地で物珍しいアトラクションを見つけた様に、2人はそれに乗り込んだ。



 = =



「来ないな」
「暇だ」
「ならトランプでもするか?」
「それは駄目だ」
「それは却下」
「あ、さいですか……」

 軽いジョークのつもりで言った男性は、他二名の女性の女性からの圧倒的な真面目発言にあっさり引き下がった。

「しかし、そろそろ来てもいい頃なんだがな。さっさと来ねえかなー」
「来れば私の念動力で自由を奪えるのに」
「自由を奪えれば私の力で視界も奪えるのに」
「そしてその二つが決まれば俺は働かないで良くなる訳ですね」
「手柄はやらん」
「師父に褒めてもらうのは私たちだけだ」
「そりゃ羨ましい限りだ。うんうん」

 その三人は、虎顎のエージェントの中では珍しくチーム行動を基本としている。自分から動くのも待ち伏せするのも三人がかり。しかし3人が個々では弱いのかというとそうでもなく、ただそっちの方が行動しやすいからに過ぎない。
 女二人はいつもこの調子であり、それに茶々を入れるこの男も大体はそんな感じである。ただ組織に入った時期が近いと言うだけで共に行動する彼らは寝食さえも共にしていたりする。

「ま、俺は手柄はどうでもいいけどね。結果的に師父が喜べばそれでいいし」
「お前は考えているのかいないのか分からんな」
「そんなお前だからこそ背を預けられるのだが」

 3人の信頼関係は厚い。なんのかんのと言いつつ結局手柄はいつも山分けだし、責任も常に山分けだ。今回も恐らくはそうなるだろう。

 ――と、そんな彼らの耳にあまり聞き慣れない重低音の振動音が飛び込んできた。
 3人とも同時に周囲を警戒する。前触れもなく聞こえたその音は、断続的にその音を高めていく。発生源は遠くない場所に思えた。

「……これは、重機か何かのエンジン駆動音か?」
「でも中統連の重機はもっと喧しい」
「ここは日本だ。母国のポンコツより性能がいいのだろう」

 この時彼らに一つ不幸があったとしたら、それは彼等が日本についての知識をそれほど豊富に持っていなかったことだろう。
 霊素革命以降、世界各国はそのアイテールをどのように文明に反映するかで開発競争を起こした。だが、そんななかで日本だけはその競争に参加していなかった。それは何故か。

 ――諸外国とは比べ物にならないほどに国内の競争が激しく、またその競争が海外に介入できない域に達していたからである。
 だから彼らは、ついつい自国基準でモノを考えていたせいで、次の瞬間視界に移ったそれに、一瞬理解が追い付かなかった。

 町の影から伝わる、腹の底を叩く振動。
 それは少しずつ、だが確実に接近してくる。
 そしてそれは、ビルの影からとうとうその姿を現した。

「……な」
「……ん」
「……だ、あれ」

 人間の四肢を模していることが分かる、巨大で無骨な人型。
 表面を鉄板で覆われたそれは、振動音と共に日光を反射し、電柱並みに高い雄姿を晒す。
 頭部に当たる部分には代わりに操縦席が設置されており、そこに――きゃっきゃとはしゃぐ少女を後部席に乗せた一人の男が座っていた。

 その全高、8、7メートル。
 その重量、70トン。
 最大出力、2000馬力。
 それは日本の科学技術の結晶にして、作業用二脚重機という名の怪物(タイラント)。

『すごい高ーい!きゃー!』
『唸れ、霊素複合動力(アイテリオンエンジン)!戦慄け、模造駆動系(イミテイトマッスル)!目に物見せてくれよう……これこそが大和魂!!リベルラ社製第二世代二脚重機『ナガト八式』ッ!!いざいざいざいざいざ参るゥッ!!』

 地響きを立てて時速100キロ近くで迫るその鋼鉄の巨人が、三人の眼前に迫っていた。
 その迫力たるや、ダンプカーがアクセル全開で迫ってくるそれをはるかに上回る。漸く我に返った三人は、即座にそれを停止させることを諦めた。

「に……逃げろぉぉぉぉぉーーーーーーッ!!!」

 直後、蜘蛛の子を散らすように逃走した三人の後ろにあったモノレール駅に鉄の巨人が轟音を立てて突入した。
 
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