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2015年 01月 19日 (月) 22時 43分
▼タイトル
新シリーズ予告編2 (追加情報あり)
▼本文
 俺はただ、自分の継ぐべき役割とか、そういうものから逃げ出したかっただけだった。ごく普通の生活をして、一族の特殊能力なんて使う機会がないような、そういう世界に生きるのが俺の目標だったはずだ。だから名の知れた大学へ行って、一生懸命勉強して、ロシアのモスクワ大学への交換留学の権利を得た。それで俺はここへ来て、慣れない土地に苦労しながらも頑張って生きてきたじゃないか。

 それじゃ、なぜ俺はこんな目に合わなきゃならないんだ?

 俺の目の前にはドラゴンが一匹。そう、ドラゴンだ。何の疑いもなく、圧倒的なまでに、ドラゴンだ。どうしようもなく、ドラゴンだ。ここはゲーム世界でも小説世界でもなく、昨日俺が居たのと全く同じ世界のはずだが、なぜドラゴンなどというものがいるのか、俺には全く理解できない。
 今の俺がかろうじて理解できるのは……全力を出しても勝てるかどうか分からない、ってところだな。

 ドラゴンが大きく息を吸い込んだ。火でも吹こうというのか。俺はあえてダッシュで駆け寄り、ヤツが息を吐く前に後ろへ回り込む。間一髪、ヤツは俺がコンマ数秒前にいたあたりを一吹きした。吐息はおっそろしい吹雪をまき散らし、はるか二十メートルほど向こうで避難しようとしていた人を氷漬けにした。あれは助かるまい、南無三。いや、きっといま氷漬けにされたヤツはクリスチャンだろうから、おお神よと言った方がいいかもしれない。
 俺は奴の背後に回ると、思いっきりジャンプしてヤツの背中に飛び乗った。背が低いドラゴンだったからそこまで難しいことじゃなかったが、当然俺が背中に乗ってるのが不快なんだろう、振り解こうと必死にバタバタもがいている。暴れんな、今楽にしてやるよ。
 俺は朝食を食べるのに使ったバターナイフをポケットから取り出し、力を込めて念じた。いつもどおり、うんざりするような黒いかげろうがナイフを包み込む。俺の一族が遥か昔から守り続けてきた異能の力だ。本来は太陽光が差している時に影に打ち込んで相手の動きを止めるのに使うのだが、カゲはカゲでも影ではなく陰に打ち込むとより強く力を発揮する。首筋の甲羅の隙間を狙ってバターナイフを突き立てると、ヤツはびくんと大きく痙攣して動かなくなった。
 俺はその隙にペン型ガスバーナーに火をつけた。普通ならこんなちゃちなガスバーナーでヤツの強靭な甲羅を貫通できるわけもないのだが、『影縫い』でヤツが動けない今なら、ヤツの最大の弱点を狙うことができる。
 俺はヤツのあんぐり開いた口をこじ開け、身体を半分突っ込んだ。口の奥のほうにバーナーを押し当てると、さすがのドラゴンも口内は弱かったようで、面白いくらい簡単に焼き切れてゆく。目だけが必死でギョロついていたが、それもやがて動かなくなった。脳髄までしっかり焼き肉になったようだ。

「おうい、なんとか修理できたぜ! 兄ちゃん、急ぎな」
 俺がなんとかかんとかヤツと戦ってる間に、ようやく準備が整ったようだ。俺はドラゴンと戦った記念にヤツの甲羅の一部をひっぺがし、急いで駆け寄ると、錆びついた機関車が蒸気を噴き出し、小さな雲を作った。最初はゆっくりと、しかしすぐにスピードを上げて、機関車は動き出す。俺は背後を振り返った。留学するために来たあの美しい街並みの都市は、今は完全にヤツらに占領されていた。生き残った人間はおそらくこの列車に乗っている数百人だけだろう。政府の要人が救出できただけマシかもしれない。俺は水平線へと消えてゆくモスクワの街を、感慨深く眺めた。


 列車はシベリア鉄道をひたすらに走って、ウファに辿り着いたところで大破した。マモノが襲撃してくるが、それをただ跳ね飛ばしながら走った結果だ。そもそも旧ソ連時代の遺産である蒸気機関がここまで動いたこと自体奇跡に近い。ここからは徒歩になる。人口密度が低いせいか、この辺りはマモノも少なく、いまいましいドラゴンのヤツは全く見当たらない。まったくありがたいことだ。
 一つ問題があるとすれば、ウファの人々が事態を全く把握していなかったことだ。突然インターネットが落ちて、まともに情報交換ができなくなったことと、妙に凶暴化した動物(もちろんマモノのことだ)が襲ってくるようになった程度にしか考えていなかった。だから首都モスクワで起こったことを信じさせるのに苦労した。
 そりゃそうだろう、実際に目の当たりにした俺だって信じられないもんな。突如として現れた数百匹もの竜が突然モスクワを占拠して、住民をほとんど皆殺しにしただなんて。
 実際、モスクワの人々は、俺達と同じ列車で避難した数百人と、その一つ前に出た列車で避難した数百人と、あわせてもせいぜい1000人くらいしか生き残っていなかった。今のあの街は人間の街ではなく、ドラゴンの街だ。この国は終わった。いや、この国ばかりではない。モスクワを出る直前、EUからの通信が入ったが、彼らもドラゴンについて何かわめいていた。きっと全世界が終わった。人類、ジ・エンド。

 ――俺はそう思ったのだが、実際は違った。人ってのは強いな、本当に。
 モスクワから避難してきた大統領が、今日、演説を行ったよ。『モスクワ奪還計画』を進めるそうだ。それにあたり、戦闘ができるヤツは臨時政府のあるマグニトゴルスクに集まれとのことだ。それと貨幣経済が死んだから、社会主義体制に逆戻りするそうだ。この国も今日から『新ソビエト連邦』になるのだろう。
 ……俺も奪還計画に参加しますかね。二度とこの力は使うまいと思っていたが、そういうわけにもいかなそうだ。あの苦しいながらも楽しい大学生活を取り戻すため、いっちょ戦いますか。


【セブンスドラゴン2020――ロシア編】 序幕


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 春から書き始める予定の新シリーズの書き出しのイメージです。一応PSPゲームの『セブンスドラゴン2020』の二次創作という扱いですが、原作の設定をあまり使っていないので、ほとんど一次創作のようなものです。原作を知っているれば、原作に登場したキャラクターが何人か出てきてちょっとニヤニヤできるといった程度なので、当然原作を知らない方が読んでも楽しめるように書きます。
 この作品は初めて『T.A.L.E.計画』に参加するシリーズであり、『東京編』『ロシア編』『アフリカ編』の3つの物語で構成されます。平行して3つの物語が同じ世界のなかを同時進行しますが、その際それぞれの物語の主人公が別の物語にも登場し、別の主人公の視点からも描かれます。新しい試みなのでうまくいくか心配ですが、楽しんでいただけるように頑張ります。
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