のつぶやき |
2015年 01月 13日 (火) 19時 20分 ▼タイトル 墓場 ▼本文 自分のアイデアを他人が書いてくれれば楽なのにー。或いは自分の思考パターンと知識を埋め込んだ疲れ知らずの集積回路が自動で小説の続きとか弾きだしてくれれば楽なのに。でも小説を書くのは楽じゃないから書けないアイデアは手元から零れ落ちてゆくが宿命……以下、残念ながら書くことを断念したアイデアの一つです。 とある世界のとある時代、その大きな島には山脈を隔てて2つの国が存在していた。 互いの国は、高くて過酷な天候の山脈のせいで国交がなく、互いの国の名前すら知らなかった。 だが人々はその国の事を知ろうとしなかった。なぜなら、今の国を建国した指導者は、どちらも山の向こうの国を敵視していたからだ。 ――山の向こうには「悪魔の国」がある。 それが互いに国交の無い両国民の共通意識として根付き、また態々危険な山脈を越えてまで真実を確かめる必要もなかったため、誰しもそれを確かめはしなかった。海から行こうにも急流と岩礁が壁になって上手くたどり着けない。大陸へ船を出して経由する方法もあるかもしれないが、あまりにもそれまでの海路が遠く過酷であるため、余計な犠牲を出したくない国家によって船を出すのは禁止されていた。 こうして互いの国は互いの存在を意識しながらも、どのような国なのかは一切知らずにその歴史を重ねてきた。 そんな関係が崩れたのは、つい最近の話。 さて、実を言うと「関係が崩れた」という話は件の山脈に起因する問題であったりする。 というのも、実は数日前、その山脈の一部が突如として「砕けた」。 軍の観測によると、海を越えて向こうの大陸から発射されたと思われる正体不明の光の一部が飛来したらしい。光は恐るべき破壊力で岩礁を大きく抉りながら島の西岸付近に着弾。非常に大規模な地割れや崩落を起こした。幸いその付近に人は住んでいなかったが、代わりにその事件によって、「悪魔の国」への道が、図らずとも開けてしまったのだ。当然ながら両国の緊張は高まった。 ――攻め込まれ、戦争になるかもしれない。 互いに戦争もしたことのない国だが、戦争をするだけの技術力と知識は存在した。だからこそ、「悪魔の国」より先に地の利を把握して敵の出方を伺う必要がある。最悪の場合は全面戦争も視野に入れる必要がある……そう考えた両国はそこに兵士を派遣した。 そうして、そんな中で「彼」と「彼女」は出会ったのである。 「………」 「………」 片や、西にある国家「メノクニ」のエリート部隊の兵士である男。 片や、東にある国家「オノクニ」の特殊偵察部隊の兵士である女。 互いは互いに睨みあい、相手の一挙手一投足すら見逃すまいと距離を取る。 彼等が使っていた最大の武器は、既に激しい戦闘によりで使用不能になっている。故に彼らが戦うならば白兵戦にて雌雄を決さなければならない。 筋力と体力では恐らく男が上だろう。リーチでも若干男が勝っている。格闘技において体格は勝敗を分ける大きな要因となるため、女兵士は不利だろう。だがそれも一概には言えない。極論を言うと、一瞬で相手を無力化する攻撃を先に当ててしまえば体格に関係なく勝てる。ナイフなどの武器があれば相打ちに持ち込むことも可能だろう。他にも勝敗を分けるポイントは様々あるが、総合的に見ればどちらに転んでもおかしくはない。 「…………」 「…………」 逡巡。ピクリとも動かない体勢のままに様々な思考を巡らせ、やがて2人は同時に動いた。 「ご、ご指示をいただけますか?」 「ご、ご指示をくださいますか?」 「えっ?」 「えっ?」 戸惑いを隠せない男。同じく戸惑いを隠せない女。互いに互いの顔を「この人は何を言っているんだ」とでもいうような目で見ているが、発した言葉は互いに全く同じものである。互いにその言葉を発することに一切の疑問を感じず、しかし相手の言葉はおかしいと感じる。『言葉は通じているのに、噛み合っていない。 「……あの、貴方は女性ですよね?」 「……えっと、貴方は男性……ですよね?」 「?」 「?」 この時、2人はまだ分かっていなかった。 「メノクニ」では、”男は常に女の為に行動すべし”という女尊教育が行われていること。 そして、「オノクニ」では”女は常に男を支え、控えるべし”という男尊教育が根付いていることを。 つまり――男にとってはたとえ相手が異国の兵士だろうと女に従うのが普通で、女にとってはたとえ相手が異国の兵士だろうと男ならでしゃばるべきでないと思っている。互いにそれが当たり前に思っている。 故に―― 「あの、だからご指示を……?」 「えぇ?いや、女の私がそんなことをする訳には……」 「いえいえ、男が女に頭ごなしに指示など……」 「ええ!?な、なんですかそれ!……ああ!口答えしてすみません!」 「ち、ちょっと!男に謝るなど他の人に見られたら……!?」 こんな感じで2人の対話はしばしの間、平行線をたどった。 |