のつぶやき |
2015年 01月 13日 (火) 19時 18分 ▼タイトル 牡丹視点の50話 ▼本文 あけおめなのです。こちらでは挨拶してなかった…… こっちでも投稿しておきますねー。 ――――――― 鋭い痛みが自身の腹を襲った。 ゆっくりと顔を下げて見やると……突き出る白刃が血に濡れててらてらと輝いている。 血が気管の奥に込み上げ、気持ち悪さに無意識のうち咳き込んだ。 ぼたっ、と血が落ちる。ストン、と膝から力が抜けた。 大地を染め上げる赤と、横を通り過ぎる赤。 なんら力が入らない。致命傷であると直ぐに理解出来た。もう……生き残る事は出来ないのだろう。 「ダメ……まだ、ダメ、です……私は、まだ救ってない……白蓮様……を、救わ……ないと」 力を入れようとするも、拳には力が入らなかった。流れ出る血と一緒に全てが抜け出ていくかのよう。 頭を埋め尽くしていく白があった。 白、白、白が浸食し始める。 愛しい主の思い出を反芻。繰り返し繰り返し、思い浮かんでくるのは大好きなあの笑顔。 「まだ、死んでたまるもんですか……私は、関靖……白馬の片腕、なんですよ」 何度も何度も、彼女の笑顔を思い浮かべ、もがいて足掻く。 抜け落ちた力を振り絞り、血を吐きながらも立ち上がろうと……しかし出来るはずなかった。 涙が出た。身体が寒かった。恐怖があった。 ――また、救えないんですか…… 頭の中でつぶやいて……違和感を覚える。 抜け落ちていく力に反して、頭には何かが流れ込んできた。 赤い髪が舞っていた。 頸を飛ばされ、赤い髪が舞っていた。 『白蓮様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』 『お前がっ! お前たちさえいなければっ! 何度繰り返してでもっ……お前達袁家だけは必ず殺してやりますからねっ!』 『袁家に絶望を! 愛しい白馬の君を殺し続ける袁家に永久の苦しみを! 幾たび繰り返し、お前たちを殺してあの人を救えるまで……私の命を呪いと為して!』 ――ああ……思い……出した。 めぐる記憶は幾年もに渡り。 その都度、彼女を救えない懺悔と後悔と慟哭に沈んできた。 それでも愛しいあの人に生きて欲しくて、私はずっとずっと繰り返してきた。 このループと嘗てのループには、相違点があったと気付く。 いないはずの男が居た。自分が慕ってしまった男が居た。 自分だけが知っている、現代の言葉を偶に使う男だった。懐かしい料理を作っていたのだと、漸く気付いた。 ――あいつは……私と同じじゃないですか。 自分と同じ異物のおかげで、この地獄に救いが出来た。 主は、彼女は、あの人は、大好きな白蓮様は……これで救われる。 ――秋斗と一緒なら……必ず最後まで残れる…… どれだけ生きてと願っても袁家と戦う事を選んだ彼女を、彼と一緒なら救い出せた。 彼が与えた不可測と、私の命を以ってして。 きっと彼なら、これからも守り続けてくれるだろう。 殺すことなんて、絶対にない。だって……あんなに大切で楽しい時間を過ごしてきたのだから。 霞む視界に赤い髪が見えた。 憎くて仕方ない敵の声が聞こえた。 意味は何も、分からなかった。 「ふ、ふふふ……私は、あのお方を逃がせたんですよ……死を選んだあのお方を救い出せたんです……ああ、でも、もう手伝えない。そういう事だったんですか……せっかく……戻ったのに」 秋斗の手伝いが出来るはずの私は、死んでしまうから手伝えない。 彼女を生かし続けて、この世界を変える為の手伝いが出来ない。 好きになった。 彼女と同じくらい好きになった。 楽しい楽しい時間だった。 これから彼には、苦痛と絶望が待っているというのに……私はもう手伝えない。 だって……例えもう一度繰り返すとしても……この時の記憶があるかも分からない。 何より彼には繰り返して欲しくない。 こんな絶望を味わってほしくない。 でも彼は、私と同じく、この世界の異物として、一人ぼっちで過ごしていかなければならなくなってしまった。 「……ごめんなさい……もう手伝えません……せっかく……戻ったのに……一人にしてしまいます――――」 だから願おう。 彼の為に。彼女の為に。 大好きな人達の為に。この世界で生きる人達の為に。 「――――せめて……あなたの望む世界になりますように……」 ――秋斗…… 一つだけ、後悔があった。 あり得ないはずの確率のカタチ。そんな幸せな事象があったのなら……。 “もしも” “あなたがずっと白蓮様と一緒に戦おうと決めていたのなら” “私も幸せに、してくれましたか?” ――きっと幸せに違いありません。だって、この時でも、私も皆も、幸せだったんですから…… 白、白、白 最後に思い浮かべたのは大好きな彼女の笑顔。 そして、四人で笑い合っていたあの時間。 ――大好きです。星、秋斗……白蓮様…… |