のつぶやき |
2015年 01月 03日 (土) 16時 49分 ▼タイトル 試作ファンタジー「リメインズ」 ▼本文 突然だが、この世界には「リメインズ」と呼ばれる七つの巨大迷宮が存在する。 もはやそれがいつの時代から存在しているのかも不明なその迷宮は、失われし古代技術の宝庫であるダンジョンをさらに上回る規模を誇る。 規模が大きければその分古代技術の量も膨大。もしもこの中から一つでも使用可能な古代技術を持ち帰ることができれば、それだけで一攫千金になるほどの経済的な価値を秘めている。 だが、リメインズには別名がある。 奈落。 全てを失う場所。 冒険者の墓場。 ダンジョンにつきものの危険が、このリメインズでは果てしなく大きい。 罠が多くあるわけではなく、一度解放した仕掛けは戻らない。 特殊な構造ではあるが、複雑ではないので迷うこともそう多くはない。 では、何がリメインズをそう呼ばせているのか。 それを確認するために、今日はリメインズを調べる二人の冒険者に注目してみよう。 第4リメインズ「ラクシュリア」。 超国家条約によって第4にリメインズに認定されたエリアだ。 リメインズにはその超国家条約によって設立された「審査会」に認定された特別な人間しか入ることを許されない。つまりこれから注目する二人はその特別な人間――「マーセナリー」と呼ばれる存在に該当する。 その地下、おおよそ三十層近くの通路。 その外壁である人造石が――何の前触れもなく爆発した。 轟音とともに立ち上る土煙の中から現れる人影。 片方は小柄な少女。 褐色の肌をむき出しにするような露術の目立つ、防具のない服装。その体系に不釣り合いなほど豊満なバストと抱えた携行大砲に目が行く。大砲からは火薬の煙が立ち上っており、その大砲によって壁に大穴が開けられたことが分かる。 もう一人は軽装の鎧を装備した剣士。 左手の手甲は二の腕近くまで伸びているのに対し、右手は川の手袋だけでむき出しに等しい。そのほか、動きの邪魔になる関節部分の鎧を排除した姿は如何にも傭兵といった風体だ。ただ、その真っ赤な瞳だけが彼の存在に暗い影を纏わせる。 少女は爆発で空いた穴から出ようとし、携行大砲が引っかかって「はうっ!?」と情けない声を出して転びかけ、後ろの男に助けられる。起き上がった少女は今度こそ穴を突破すると、男のほうを見て胸を張った。 「ほら!絶対にここは構造的に弱いと思ったんですよ!言ったとおりだったでしょ!?壁を吹っ飛ばした先に道は出来るのです!」 「……………マッピング中に道を増やすな」 「い、いいじゃないですか!ホラこれで行き気も楽になりましたし!」 「……壁の先に、古代技術があったらどうする。粉砕する気か?」 「あう……ご、ごめんなさい」 「俺は別に、構わんのだが」 男はこのリメインズに眠る財宝や古代技術には興味がない。だが、少女は技術屋であるため、とくに機械(マキーネ)の技術には並々ならぬ関心がある。男はそのことを知っていて指摘しただけなので謝られる謂れはないのだが、少女には間違った認識を与えてしまったらしい。 二人はあくまで仕事上の都合でコンビを組んでいるだけであり、特別な関係などではない。立場としては対等だ。だが、男の持つ暗い影が、彼の言動の一つ一つに重みをもたせている。 しゅんと肩を落とす少女を一瞥した男は、気にする様子もなくおもむろに通路を向いて剣を構える。 「まぁ、いい。それよりも派手に音を立てたせいで魔物どもに気付かれた。俺は右をやる」 「じゃあ私は左ですね!」 魔物、と彼は気軽に言った。 魔物――自然の生み出した存在とは思えない、魔を内包する異形。 この世界における人類の天敵であり――そして、「このリメインズから魔物は発生している」。 つまり、ここは人類にとって最大にして最悪の敵の巣。 ひとかけらの希望と膨大な災いを内包したパンドラの箱。 跳梁跋扈する魔物たちは冒険者を骨の髄まで食らい尽くす。 マーセナリーという戦闘集団でさえも、その生存確率は低い。 尤もひどかったころの生存確率は三割。今でも新人マーセナリーの生存確率はそれと大差ない。 ゆえに、奈落。 ゆえに、全てを失う場所。 ゆえに、冒険者の墓場。 だが、彼らは物怖じ一つしない。 「困ったら俺を囮にしてもかまわんぞ、カナリア」 「いざとなったら私を盾にしてもかまいませんよ、ブラッドさん?」 ブラッドと呼ばれた男は、その腰に携えていた刀身をすらりと剥き出しにする。 カナリアと呼ばれた少女は、携行大砲をバックパックにしまい、両手に短距離携行砲を装備する。 二人の武器が、鈍い光を放った。 「まずは初撃、スプラッシュ・バウンッ!!」 上下にそれぞれ砲身のある携行砲の下段が火を噴く。 発射されるのは刺のように鋭い無数の弾丸。散逸するニードルは弓などとは比べ物にならない速度で直線状を飛び、正面にいた蝙蝠と狼の魔物を吹き飛ばした。 狼の魔物は全身に容赦なく突き刺さった針のような弾丸にもだえ苦しみ、蝙蝠の魔物は羽ごとハチの巣になった。そのほかの魔物たちも多かれ少なかれ怯んでその動きを止める。 だが、その隙こそが命取りであったことを、魔物たちは身をもって知る。 「次撃、マシン・バウンッ!!」 上部砲身から鋼鉄の弾丸が矢継ぎ早に発射され、足を止めた魔物たちに殺到した。 直線に進むそれは、一撃一撃の弾丸が今までとは比べものにならないほど重く、正規軍でさえ手こずる魔物の丈夫な体に次々着弾していく。衝撃は容赦なく魔物の皮膚を突き破り、骨をへし折り、なんとか立ち直ろうとしたその体に追い打ちをかけるように連続で叩き込まれる。 スプラッシュ・バウンの広域射撃で足を止め、連射性のマシン・バウンで一網打尽にする。 言葉にすれば簡単だが、この方法は誰にでもできる真似ではない。 まず、携行砲というのはこの世界でも最新鋭、最高峰の技術で製造されたものである。 次に、この携行砲を扱うには、この世界における魔術である「神秘術」の特別な素養が必要である。 そしてこれが非常に重要なことなのだが―― 「グギェエエエエエエエ!!」 「あれ?仲間を盾に切り抜けましたか……?」 正面から、二足歩行の蜥蜴が奇声を上げながら突進してくる。魔物の中でも武器を扱う亜人タイプ、厄介な相手だ。爬虫類的な速度と武器というリーチを得た魔物は、マシン・バウンの射撃を壁伝いに躱し、カナリアに肉薄する。 小柄な体躯に迫る命の危機に、カナリアは目を大きく見開き――すぐさま脇を引き絞り、携行砲をまるで打撃武器のように、そのままカウンターの要領で蜥蜴に叩き込んだ。 「やあああぁぁぁぁッ!!」 「グゲッ!?」 驚愕と衝撃で、蜥蜴の瞳が驚愕に染まる。 突進の運動エネルギーが、携行砲の殴りつけで完全に相殺。いや――逆転した。 「どっ……せぇぇええええええええいッ!!!」 「ギュギェエエエエェェェェェェ!?」 カナリアは豪快にそのまま携行砲を振り抜いて、蜥蜴を床に叩きつけた。 蜥蜴はその衝撃で頭蓋が割れて、ぴくぴくと体を痙攣させながら絶命した。 「携行砲が飛び道具?何のことですか?これは接近戦重視の武器ですよ!」 実は「携行砲」とは名ばかりで、片手用の武器であるにもかかわらず平均的な種族では構えることすら難しい重量を誇っている。故にそれは、その砲を構えることのできる者にとっては立派な「鈍器」なのだ。 カナリアは、ガゾムと呼ばれる種族の出である。そしてガゾムの特徴は大別して3つある。 手先が器用で技術者が多い。 成人しても体は小柄で、子供のように見えるが長寿。 そして、柔軟性を持った鉱物のような肉体を持っているため、とてつもなく頑丈で怪力。 種族としての長所を全面的に生かした、火力と怪力のパワーファイター。それがカナリアというマーセナリーの本質である。 敵を全滅させたカナリアは、パートナーであるブラッドの方に加勢しようかと振り返る。 が、すぐに必要ないな、と判断してその光景から目を逸らした。 「汚らわしい獣共が……血反吐をまき散らして、無様に死ね」 瞬間、一閃。 魔物の死骸と断面から漏れ出した血の飛沫(ひまつ)がリメインズの通路を彩った。 返す一閃で次の魔物を切り裂き、その奥にいた巨大な魔物にその刃を突き刺して、斬り抜いた。 切り裂くたびに、魔物の切り傷からは不自然なまでに大量の血潮が噴き出し、絶命する。 噴出する返り血を頭から浴びたブラッドの目の輝きが、狂気を帯びた。 「く、は。はは……はははははっ」 がばりと開いた口から洩れる、乾いた嗤い。 顔から垂れた返り血を舌なめずりで啜ったブラッドが、スイッチが切り替わったように弾丸のように跳ねて奥の魔物の群れへ飛び込んだ。 そこから先は、もはや惨状としか言えない凄惨な光景だけが量産されていく。刺突し、斬り飛ばし、抉り、肉片や臓物が飛び散るほどに荒々しく、貪るように、ブラッドは嗤いながら魔物を刈る。 もうカナリアにとっては見慣れた光景であるが、それでも未だに血の臭いから逃れるように口元を覆った。 「『呪剣ヴァーミル』……傷口から強制的に血を『吐き出させる』呪いの剣。いつ見ても凄惨ですね………」 舞い散る血潮は自然に切り傷で噴き出たものではない。 ブラッドの持つあの呪剣が齎す一種の呪いが、その体から強制的に血液と肉体を分離させている。 つまり、あの剣で斬られれば命の源を強制的に奪われ、死に至る。 だが、カナリアは知っている。 ブラッドの狂気は、たとえあの剣を握っていなくとも変わらないことを。 何故なら、剣はあくまで負わせた傷に追加効果を与えるだけ。だから―― 「邪魔だ、でくのぼう。血飛沫だけまき散らして、果てろ」 巨大な魔物が振り落とした大木のような腕を、ブラッドの剣が真っ二つに切り裂く。 それによって出来上がった血潮の滝を気にも留めずに跳躍したブラッドは、魔物の顔に両手持ちに代えた剣を振りかざした。 べぎり、と鈍い音が響き、魔物の首が重力に従って落下する。 ――例えばブラッドの五倍はあろうかという巨大な魔物を彼の剣が骨まで断ったとしたら、それは彼の膂力によって断ち切られたものなのだ。 例え呪剣ではなくとも、頑丈な剣ならば彼はあれを再現できる。 そして、首を切り落として出来た魔物の血の噴水の下に佇むブラッドは――その血飛沫を全身に染み渡らせるように浴び、正気に戻ったように嗤いを解く。 「先に、進むぞ。今日中にマッピングを終わらせる」 「………」 無言で頷き、カナリアは血の海を越えてブラッドの隣へと行く。 殺戮を楽しむように暴れた後の彼の顔はどうしてか、少し寂しそうに見えた。 彼の過去にいったい何があったのか、カナリアは未だに知らない。彼がなぜ戦いにのめりこむように暴れるのかも、それでいて人に辛く当たることをしない理由も。 ブラッドとは「血みどろ(ブラッドリー)」という仇名に由来するもので、名前すら知らない。 彼を動かす原動力は何なのだろう? 私は――復讐だけれども。 という訳で、ちょっとだけ書いてみました。いろいろとややこしい説明を省いてざっくりわかりやすくですけど。今は準備とか実力とか全然足りてなくて、書きたくとも書けないやつです。書ける日が来るんだろうか。 |