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2014年 12月 30日 (火) 15時 50分
▼タイトル
暇潰19
▼本文
ちなみにこの暇潰シリーズは何故かスクライドを見た影響で書き始めました。

 ※ ※ ※
 
 モノレール駅への近道であるはずの橋は、たった一人のベルガーによって安々と閉鎖されていた。

 突如として日常に現れた大きなベルガー犯罪に、周囲の人間の多くが逃げ惑う。この法治国家日本に突如として現れた水の脅威に人々は恐れおののき、悲鳴を上げて逃げ惑う。
 犯人を取り押さえようとする者はいない。いや、出来ない。
 高い能力強度を誇るベルガーは、既に一種の災害と見られている。人間が水の脅威に生身で挑めば待っているのは死に他ならない。ゆえに、ベルガー犯罪に対して最も有効な対応策は逃げること。
 ベルガーの相手は同じベルガーか、ベルガーに対抗する訓練を受けた人間に任せるしかない。

 騒ぎは既に警察へと通報されてはいるが、非常に突発的に発生した事件なだけに対応は間に合っていないのか、一向に現れなかった。

 つまり今、洪水(ホンシェイ)の活動を警察は止めることができない。

 散歩でもするように前進する洪水がいる場所は、自身の作った巨大な水の塊の内部。
 そこからアイテールの気配と視覚の両方を使いながら、素体(アビィ)の乗る車を発見する。乗っているのは運転手と助手席に男が一人ずつ――そして後部座席に、素体。
 男は車から逃げもせずにこちらを見続けている。怖気づいたか、それとも大人しく素体を引き渡す気になったか。

(まったく、兄さんにも困りものだ。手っ取り早く竜巻でも起こして障害を薙ぎ払ってしまえばよかったものを……)

 大風ならば出来るはずだ。
 あの兄なら間違いなくできる。
 だが、それでもそれをしなかったのは――まだ、過去を引きずっているのだろうか。

(僕ら兄弟が犯してきた多くの過ちの一つ。あの日からだっけな、兄さんが「戦士」としての戦いを追求し始めたのは――……?)

 不意に。

「――掌握完了。上書開始」

 洪水は、自分の操る水に別の人間が操作するアイテールの流れが混入したことに気付いた。
 異能による性質の変化、しかも自分が主導権を握る強力な流れにさえ強制的に割り込む法則の上書き行為。
 アイテールの流れ込む元を振り返ると、金髪の女がアイテールの渦に身を包みながら、静かに手を掲げていた。

「法則奪取(インターセプト)だと!?くそっ、あの女はベルガーなのか!!」

 法則奪取――アイテール操作の主導権を強引に奪取する技術。
 遠隔操作や放出型の異能は、ベルガー独特の特殊脳波をアイテールを通して空間に干渉することで遠隔発動を可能にしている。あの女が行ったのはその遠隔発動の為に収束したアイテールに自分の異能発動ラインを打ち込んで操作権を奪う行為。
 口にするのは簡単だが、実現するにはアイテールの流れの感知及び精密な操作と収束地点の見極め、性質の正確な理解、そして相手の操作ラインと接触せずに一瞬で法則を書き換える能力強度が必要になる。

「……並じゃないっ!」
「――強制結晶化(クリスタライズ)!!」


 宣言のようなその言葉とともに、洪水の集めた膨大な水分が、一瞬で結晶化した。


 ただ凍り付いたわけではない。操作権を剥奪された海水は彼女――アレティア・エヴァンジェリスタの意のままに計上を変化させ、橋の中心にたたずむ巨大な十字架の形状となって橋に道を作る。
 水の壁に巻き込まれた車たちも結晶化の過程で持ち上げられていき、挙句に氷晶は法師たちの乗る車の邪魔になる放置車両までも持ち上げた。

「今だよ、法師!」
「ありがとうティア!この借りは次のデートできっちり返すからたのしみにしてろ!!」
「待ってるんだからねーっ!!」

 大声で言葉を交わすと同時に、空いた道を車が突っ走る。
 障害がなくなってしまえば残る関門は駅前だけだ。

「ってうおぉぉぉぉぉぉッ!?路面が凍結してる、路面がぁぁ!!」
「か、法師ぃー!?」
「しまったな……スタッドレスはさすがにもう外しているし。だが大丈夫だ俺よ!アビィはむしろ車のスピンを楽しんでいるぞ!さすがは俺!うっかりで子供を喜ばせるとはやり手だな!!」
「てめえは楽しそうに解説してないで黙ってろボケぇッ!!」
「きゃあ!くるくる回ってる!すごい!」
「凄くない!!」

 怒鳴りながらブレーキとアクセルを踏み分けてハンドルを全力で切った操縦で、車のスピンはコントロール可能な域にまで立て直した。

「だ、大丈夫なの法師!?ごめんね、道路凍らせちゃって!」
「けけけ結果オーライ!俺が次から気を付ける……!」

 幸い道路が広かったおかげでクラッシュを免れた車は、虎顎の二人目の刺客を突破した。



 法師たちを見事に送り出したティアは遠ざかる車に目いっぱい手を振った後、自分の作り出した海氷を見上げて首をかしげる。

「でも変ね?いくらなんでもこれだけ大きな異能発動があったんだから警察が動いててもおかしくないのに……渋滞が起きてるとはいっても、異能課は移動用に四脚重機とかヘリコプターとか所持してる筈でしょ?」
「――それはな、女。僕たちの仲間が足止めしているからだよ」
「ッ!結晶化!」

 次の瞬間、発砲音。
 咄嗟に声が聞こえた方向へ手を掲げた。

「……驚いたな。一杯喰わされたのもそうだが、展開したそれは障壁ではなくアイテール結晶か?」

 放たれた弾丸は、ティアに届く前に淡翠の壁に遮られてその威力を失っていた。
 淡翠の発光色が示すものは、大気中のアイテールを物質化したもの。高濃度のアイテールは一定環境下で液状化し、さらにそこから結晶化させることが可能である。
 そして、ティアの異能である「結晶化(クリスタリゼーション)」を用いれば、この程度は造作もないことだ。
 障壁は役目を終えたように結晶化が解け、大気中に再び吸い込まれていった。
 銃を突きつけるその男に、ティアは正面から睨み返す。

「一応死なないように閉じ込めたから、こういう展開も想像してたけど……」
「僕の能力強度を低く見積もるな。大気中のアイテールを物質化できるのは君だけじゃない」
 
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