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2014年 12月 23日 (火) 01時 37分
▼タイトル
暇潰16
▼本文
BDFFでいい加減パーティメンバーのレベルがカンストしそう。
なのにまだ7,8、最終章に辿り着いてない。
24日になってようやく書いた。

 ※ ※ ※

「わかった!もういい!もういいからその説明をやめてくれ!」
「あー、とにかくあれです。多分あれと関係あるんじゃないかなってことで、ね?」

 具体的な話ならば誰よりも饒舌に語る癖に、人が説明出来て当たり前に事は抽象的な言葉ばかりを使う。異能課にいて最も会話に困難な男に、難儀な奴だと周囲はため息をついた。

「ABIE……アビー……それでアビィと呼ばれていたのか。得心した。これが例の少女を監禁していた理由という訳だ」
「でもあれなんっすよねー。そうなると辻褄があれでして……やっべーっすよ先輩」
「……なにが!どう!あれなんだ!?論理立てて喋れ!!いいか……より簡潔に、短くだ!!」

 割と神経質である水無月の血圧は今日も高い。どこか飄々としている吉田とは対照的なこの男が、実は吉田を異能課にスカウトした張本人だというのだから世の中は面白い。
 そしてこの吉田という男、念を押されても結局話は長くなるが、対話という形ならば割としっかり会話ができる。……少々遠回しな言い方に変化するが。

「先輩、人の死の定義って何だと思います?」
「それは……一般的には心臓の停止、若しくは脳の活動の停止だろう」
「そうっすね。昔も今も、どっちが正しいと言う決着はついていません。どっちにもなりうるものっすから。例え心臓が動いていても脳の活動が止まっていれば。心臓の鼓動と脳の活動の維持は直結している以上、二つの間には切り離せない因果関係がある。しかしこの資料によると研究を行っていた連中はそこから一歩踏み出した方向へ方針を進めたようです」
「それで、結局吉田は何が言いたいんでシか?」

 焦れた玉木の言葉を拾うように、饒舌になった吉田が言う。

「ABIEシステムは生きたベルガーを利用した生体兵器の開発、若しくは異能の組み込みを前提とした全く新しい兵器のインターフェイス作成を主眼としていると仮定します。そして異能はベルガー本人の意思でしか発動できない。でも、そうなると本人の意志や感情に左右され、安定した力は発揮できない」

 ベルガーの能力は原則、異能を持った本人にしか行使できない。
 この前提があるからこそ、ベルガーに対する人体実験の類は殆どが初期段階でとん挫した。
 洗脳、薬物による判断能力の低下は全てが異能の能力強度をがた落ちさせ、脳の活動が低下した脳死状態のベルガーは何の実験を施しても普通の人間となんら違いがない。
 結局、それらの実験も人権を確実なものにしたベルガー性質の手によって徹底的に弾劾され、検挙されていった。今でもベルガーにこのような実験をしていたという負の歴史を恨み、反社会的な活動を続ける過激派ベルガー集団も存在する。
 そして、その反社会的な実験を未だに行なっていた存在。それが、虎顎だった。

「彼らはその発動を機械的に乗っ取って自分たちの発した信号をあたかもベルガーが本心で発信したかのように見せかけること……いや、ベルガーの脳に事実を誤認させる技術に最も心血を注いだようです。その為のナノマシン、そしてその結果、彼らが出した結論――それこそ、アビィちゃんとやらが『殺される』と思い込んだ理由に繋がると思うのです」
「で、その結論ってぇ?」
「はっきり言ってしまえば、彼らはこう考えたのです」

 淡々と語る吉田の目はどこか冷たくて、虚しさを感じさせる。
 熱の完全に引いた声色で、やはり淡々と、告げる。

「脳の活動『のみ』を維持できる機械にベルガーの脳髄だけを放り込み、自己判断も出来なくなったそれに仮想的な現実世界と肉体を与え、今までの洗脳用ノウハウをて利用すれば異能は発動する。つまり――連中が欲しいのはあくまでアビィの脳髄だけなんですよ。体はどうでもいいんです」

 そのおぞましい思想に外気が凍りついたような錯覚を覚える。
 唯一霧埼だけはさほど動揺してもいないが、同じ人間である筈のベルガーをそうまでして利用したいのか、という嫌悪感だけは全員に共通していた。

「悪魔の研究、と言うべきっすかね。その類です」
「ノウハウってぇ――今まで本気の人体実験やってたってことぉ……日本でぇ?」
「うん。あいつらの本土に比べればよほどやりやすかったと思うよ。脳の操作関連の研究は、例の地下施設で全部行ってたみたいだよ?研究所の規模的に苦しくなったこと、表向きの会社で十分にカネが集まったことが重なってお引越ししてきたのがここみたいだ」

 つまり――虎顎は昔からABIEシステムの開発の為に多くの人体実験を行っていた。
 そして様々な議論を重ね、データを集めた結果、ベルガーの脳髄だけを生きた状態に維持すればABIEシステムの最終目的に近づくと判断した連中は、その頃の研究所が手狭になって地下室の存在を隠匿し、所持していた研究資料や機材は使える物だけ持ち出し、あとは足がつきそうな証拠を隠滅した。

「証拠を、隠滅……普通ならリスクの大きい遺体処理も、一部の異能者ならば証拠を残さず消せる……ベルガーにベルガーの後始末をさせたに違いないでシ。……イカれてまシ」
「あいつら、一体何年前から我等の足の下でこんな……このような!」
「でも実はこの話、続きがあるっす」

 厄介なことになった、と言わんばかりに目頭を押さえ、吉田は資料を水無月に渡す。

「システムは完成した。あとは素体を入れるだけ……これ、昨日の資料です。連中、もうシステムを完成させて公安とのごたごたの隙に逃げ出してる!虎顎のベルガー部隊は全部アビィちゃんの回収に向かっていますよ!!」



 = = =



「もう少し兵隊を集めたかったのですが、『子供たち』をあまり大勢連れていなかったのは失敗でしたねぇ。先行した2人も含めてたった16人ですか……まぁ、いいでしょう。それでも今の私にとっては心強い味方です」

 周囲を見渡した初老の男は、それもよきかなと柔和なほほえみで周囲を見渡す。
 並ぶのは彼の私兵、彼の忠実なしもべ、そして彼の子供たち。
 その年齢は高いもので30代、若いものでは10代の者さえいる。

 彼らの中には実験の素体とされたものも存在する。
 実験の痕が体に残っている者もいるし、親友が彼の命令で命を散らした者もいる。
だが彼らは男に従っている。
あくまでも自分の意志であり、そこには男の化け物染みた戦闘能力に対する敬服はあれど畏怖はない。男を本気で敬愛し、自ら望んで付き従っているのだ。

「では、みんな頼むよ。君たちならきっとできるとは思っていますが、気を付けるのですよ?アビィの奪還には成功しても失敗しても……必ず生きて帰ってきなさい」
「我知道了!」
「我知道了!」
「我知道了!」

 了承の意を示した若きエージェントたちは次々にその場を離れ、空間転移(テレポート)を使用するベルガーとともにアイテール光のなかに消えた。
 男はそれを笑顔で送り出す。自分の子供を学校に送り出すような父性を感じさせる笑みだった。

 彼はそういう男だった。
 いまだに能力の制御がへたくそで、抑制した意識を破壊という形でむき出しにもするが、本質的に彼は愛を重んじ調和を重んじる。研究者気質で自己管理がなっていないと子供に怒られて落ち込んだりもするし、戦えなくなった者に対するいたわりもある。
 おおよそ犯罪組織の幹部にはふさわしくないと思える人間だ。

 しかし、そんな男がただ一つ狂気を抱いているのだとしたら――それは、『しあわせ』の意味。

「アビィもそんなに怖がらなくともいいだろうに……ただ君の生きる世界が『物質』から『情報』へと変わるだけなのに」

 それがさしたる問題もないことであるように、初老の男は不思議そうに首を傾げた。
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