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2014年 10月 08日 (水) 20時 43分
▼タイトル
月食 短編
▼本文
なんとなく思いつくままに書きました。
――――――――――――

 大変だ大変だ……そんな声が聞こえそうな足取りで駆ける少女が一人。白銀の髪を流し、普段は走らない彼女。
 何事か、と扉を開ける者は多かったが、訝しげに首を傾げてその背を見やるだけ。

「秋斗さん! つ、月が欠けて行ってます! さっきまであんなに綺麗だったのに……」

 一つの扉を開いた月は、開口一番に慌てて叫んだ。
 蝋燭が照らす薄明りの中、本を読んでいた秋斗は視線を向け、

「へぇ……今日がその日なのか」

 ぽつりと口にした。
 のんびりとした彼の声に驚く。月は首を傾げて見つめた。

「どうして……月が欠けているんですよ?」

 何か恐ろしい事が起こる前兆ではないか、と身体を震わせた。
 くつくつと喉を鳴らして本を閉じ置き、窓に近づいた彼は目を細めて夜天に浮かぶ白を眺める。

「あー、やっぱり月食か」
「月食?」

 近づき隣に並ぶ。見上げた白は、さっきよりも欠けていた。

「見るのは初めてなんだな?」

 無言で頷いた月に対して、秋斗は緩く息を付く。

「月が食われるって書いて月食。月ってのは日輪の光を受けて輝くんだけどな――――」

 つらつらと説明される内に、彼女の顔は驚愕に染まっていく。
 現代では常識な事でも、この時代では非常識。例え名だたる天才であろうと、この世界をカタチ作る星が丸いなど、誰も信じはしない程に。
 何故そんな事を知っているのか、とは聞かず、本当なのかとも尋ねられなかった。

「――――ってなわけで、別に凶兆ってわけじゃあない。まあ、お前さんの真名だし、不安になるのも仕方ないよなぁ」
「……へぅ」

 その説明を聞いてしまえば、大騒ぎした自分が恥ずかしい。
 彼から見た自分はさぞや滑稽に映っていたのでは無いかと、火が出そうな程に顔を赤く染め、月は両手で覆い隠した。
 恥ずかしすぎて頭がクラクラし始めた月は、へにゃり、と膝から力が抜け、彼に抱きとめられる。

「おっと」

 そんな彼の行動が、さらに恥ずかしさに拍車をかけた。
 熱が昇った頭は暴走し始めた思考が渦巻く。
 そうして……彼が言った『月が食われる』という言葉が頭に響いた。

――月が食べられる……月が食べられる日なら、私を食べるにも最適な日なのかな? じゃ、じゃあ彼は……このまま……私を……

 乙女の思考暴走はかくも難しいモノである。
 どうやってそうなったかは分からないが、結論に達した月は……ぎゅう、と目を閉じた。

「そ、その……今から食べちゃいますか?」
「はい? 何を?」

 急な話題転換に疑問符を頭に浮かべまくった秋斗が聞き返すも、暴走した月は止まらない。思い浮かぶのは彼を慕う少女の事。

「雛里ちゃんはどうするんですか?」

 なんで雛里が出てくる、と思考に潜れば、せっかくの月食なのだから誰かと何か食べ物をつまみながら見るのもいいのではないかと提案しているのだ……そんなズレた考えに行きつくのは、色気より食い気な秋斗にとってはいつもの事。

「んー、雛里も一緒に食べたらいいんじゃないか?」

 一緒に! 内心で叫んだ月は驚愕に目を見開いた。

「一緒に、食べちゃうんですか……」

 言葉が足りない。足りなさ過ぎる。
 擦れ違いはもはや取り返しのつかないレベルに達し始めている。

「……? 月は嫌なのか?」
「……雛里ちゃんに悪いです」

――三人で食べる事の何が悪いんだ? むしろ皆も呼んだ方がいい気がする。華琳とか特に。いや、それも悪いのか? でも雛里に悪いって事は、雛里と二人で食べて来いとも取れるし……。

 わけが分からないよ、と白いあのキャラの声が秋斗の頭に響く。
 何かがおかしい……漸く気付いた。月と雛里の仲は悪くない。何か食い違いが起きている。考えれば早い。彼女に聞けばいいだけである。

「なぁ、月。お前さんはどうしたい?」

 彼はいつも通り、相手に結論を委ねた。

「わ、私は……」

 俯き、ぎゅっと手を握った彼女は彼の腕の中。
 体温が上がる。これから言う事を考えて、彼女の顔はまた、真っ赤に茹で上がっていく。

「私は――――」
「おい徐晃! 外を見てみろ! 月が変な欠け方をしてるぞ!?」

 ガチャリ、と扉が開き、現れたのは春蘭。
 秋斗も月もそちらを見た。
 はた目から見れば二人はどう見えるか……それはもう、盛大な勘違いを与えてしまうことだろう。

 目をまぁるく、呆然とした春蘭は、すーっと無言で身体を下げていく。
 彼女にしては珍しい事に、空気を読んだ。二人には悪い事に。
 パタリ、と扉が閉じられた。後に、大きな、とても大きな叫びが廊下に響いた。

「華琳様―――――――――っ!」

 次第に遠くなっていく声と足音。聴こえなくなれば居づらい沈黙が包む。
 月の頭は既に冷めていた。

「ごめんなさい」
「ちょっと行って来る」

 言葉は同時。
 彼がしなければならない事は何か、二人共が分かっていた。



 次の日、彼は寝不足からかふらついていた。



――――
落ちが投げっぱなしなのはお許しを。

本編書かないとってなったので。ごめんなさい。

ではまたー
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