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2014年 09月 28日 (日) 17時 07分
▼タイトル
おのれ妖怪
▼本文
ボタンを押してないのに勝手に自販機からおつりが出てきた。
煮卵の黄身が固まってなくて服に零れた。
3DSの読み込みが遅すぎてソフトダウンロードが10分に1パーセントだった。
溜めていた図書カード5000円分がやってもないTRPGブックの代金と消えた。
タッパーが床に落ちて角が砕けた。

私の綿密な観測と計算によるとこれらは全て妖怪の所為らしい。きっと天狗の仕業じゃ。ようかいうぉっちの人がそう言ってた。だからみんな妖怪のせいなんだ。そう伝えると、ヤツは顎に手を当てて、そいつは面白い推測だ、と大真面目に呟いた。

「つまるところ、妖怪というのは畏れや怒り、受け入れがたい不条理や負の感情に理由を求めた結果として作る出された存在だ。だから実際の因果関係がどうあれ誰かが『妖怪のせいだ』と言って、お前さんが妖怪の所為だと本気で思ったら、そりゃ妖怪の所為だよ。だって、そいつが無きゃ妖怪は存在しないだろう?」
「でもそれは妖怪だけじゃないだろ。幽霊とか、神様とかもそうだ。海外じゃ病気の大流行や飢餓が起きるるとそれを呪いだと言い、よその宗教が邪魔になったら悪魔だという。神も悪魔もその負の感情とやらに影響を受けるお友達だ。実体のない像だ」
「そうだ。でも人は実体が無かろうが縋る。縋ることで、妖怪も神様も、そういう非科学的な存在はその実体があたかも本当に存在ように語られるんだ。百聞は一見にしかずと言うが、百聞の力は時に一見を押し潰す。つまり――妖怪の所為で合ってるよ。いや、合っていないと妖怪の存在が成り立たなくなる。お前と妖怪は共存関係だ」

むう、と唸り声が口から洩れる。私はコイツの物言いが実は好きじゃない。いつだって人の事を肯定するのだが、その発言内容をまとめると遠回しに人の幼稚さを指摘されている気分になるのだ。こいつが言っていることを要約すれば、お前が素直に自分の不注意と不運だと認めればそれで終わりだが、妖怪の名前を持ち出せばものごとは妖怪の所為に出来てしまう。その逃げ道に入っていることを確認したうえで、お前がそれでいいと思っているなら話に付き合ってやろう、と言われている気がするのだ。

「お前はいつも人の事を肯定してばかりだな。それとも肯定しているように聞こえるだけで、私を糾弾しているのか?」
「まさか、俺は感じたままの事を喋っているだけだよ。他意はないし、遠回しなことは言えない。お前だって知ってるだろう?」
「・・・・・・そうだったな。お前が喋る内容は、俺が考えることだもの」

そう、こいつは俺の心の中の言い訳を一字一句間違えずに喋っているだけに過ぎない。影絵のように、人の心を映し出す真っ黒な人影――そう、お前は私の影法師。



最近もうなんか、うん。今日は妖怪の所為で頭がヘンだ。
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