のつぶやき |
2014年 09月 08日 (月) 19時 22分 ▼タイトル 短編話 中秋の名月 ▼本文 勢いでやった。後悔はしていない。 ―――――――― 漸く涼しくなったと肌を撫でる風が教える。 夜天には優しい光を届けてくれる満月。一年を通して、一番明るい夜なのではないかと、秋斗はそんな事を考えて、手に持った団子を口に運んだ。 「月が綺麗ですね」 見上げて零された一言。 秋斗はくくっと喉を鳴らして、嬉しそうに目を細めた。 「『俺……死んでもいいや』」 目を見開き、膝の上で座ったまま顔を上げて悲哀の眼差しで見つめてくる雛里は、どうしてそんな悲しいことを言うんですか、と無言で責める。 「お前の為なら、っていっても怒るよな?」 言葉を続けてくしゃくしゃと頭を撫でると、恥ずかしそうにあわわと呟いて俯く。 ふと、雛里は軽々しくそんな言葉を口にする彼では無いと気付いた。 しかしながら思考を巡らせても、分かるはずが無かった。 「今回発案のお月見、というモノにも驚きましたが……今の発言もお月さまに関係しているんですか?」 問われて、幾分かの静寂の後に、月を見上げながらまた笑う。 「うん。雛里が言った言葉がさ」 そのまま続けて、秋斗はつらつらと説明していく。 大陸の外では言葉が違う国もあり、ある言葉を月が綺麗ですねと訳した一人の文学者の逸話。 もう一つ、同じ意味合いの別の国の言葉を、他の文学者が死んでもいいわと訳した逸話。 二つ合わされて、雛里は予想してみた。それがどういった言葉を元にされているのか。 もしかして、というのに思い至り、 「しょ、しょの言葉は……」 顔を紅くして噛みながら、うるうると潤んだ瞳で見上げてくる。 優しく微笑みかけながら、またくしゃりと、秋斗は彼女の頭を撫でた。 「言わせんな恥ずかしい……って感じだ」 言ってほしくてわざわざ尋ねたというのに、いつものようにぼかす彼に、雛里はむーっと唇を尖らせた。 「……ちゅ、ちゅきが綺麗でしゅねっ」 くるりと身体を反転させて、見上げながらもう一度。今度は意識したからか噛んでいたが。 「ああ、そうだな」 悪戯っぽい笑みを浮かべながら躱す。また、雛里はうるうると瞳を潤ませて彼を見上げた。 頭を撫でて、彼はすっと、彼女の額に口づけを落とし、 「あ、あわわぁ……」 恥ずかしくて胸に顔を埋める雛里にまた苦笑を零す。 「言葉にしなくても伝わるだろ?」 気恥ずかしさから、ポリポリと頬を掻いての一言。 ジト目で見上げる翡翠の瞳は見えない振り。彼は一度だけ月を見上げて、彼女を抱きしめて耳元でその言葉を零した。 耳元で囁かれた一言を受けて、雛里もぽつりと同じ言葉を返した。 雛里はまたくるりと身体を反転させて、彼に背中を預けた。 二人で見上げるは真月。夜天の主たるに相応しい、綺麗な綺麗な白銀の輝きであった。 〜後ろの一コマ〜 「月が綺麗ね」 と華琳。 「月が綺麗だわ」 「月が綺麗よ」 「月が綺麗なのですよー」 「月が綺麗、です」 「月が綺麗ですね」 と、軍師五人。 「月が綺麗やなぁ」 「月が綺麗だ」 「うむ、月が綺麗だ」 と、将軍三人。 「月が綺麗だね」 「うん、月が綺麗」 と、親衛隊二人。 「月が綺麗なのー」 「月、綺麗やわぁ」 「月が綺麗」 と、三羽烏。 「月、綺麗だなー」 「ちぃと同じくらい月が綺麗ね」 「月が綺麗です」 と、三姉妹。 皆の真ん中で佇む少女が一人、顔を真っ赤にしてふるふると震えて、 「へぅ、へぅ、へぅ〜〜〜〜〜〜っ!」 その言葉が口にされる度に、口癖を零す。 にやにやと、誰もが意地の悪い笑みを浮かべていた。 詮無きかな。字は同じでも、読み方が違った。 団子や酒を持って語られた言葉はその少女に向けて。皆が見ているのは空に浮かぶ輝きでは無く、一人の少女であった。 性質の悪い悪戯だと思いつつも、沙和と秋斗が完成させた綺麗な服で着飾られているので何も言えず。 御月見をするなら、夜天の主の真名を持つ月をしっかりとドレスアップしよう、などと秋斗が発案したからこんな事になったのだ。 華琳がそれで遊ばぬわけが無く、褒めちぎって可愛らしい姿を堪能するのは当然であった。 「ちなみに、秋斗から聞いた話なのだけれど……『月が綺麗ですね』には“愛してる”の意味を持たせる事も出来るらしいわよ?」 最後に華琳から爆弾発言を受けた月は…… 「へぅっ!」 引きつけを起こしたような口癖を上げて、恥ずかしさから立ってはいられずに、近寄ってきた華琳に抱きかかえられ、彼女から愛おしげな視線を向けられたのを最後に気を失った。 ―――――――― 読んで頂きありがとうございます。 はい。今日は中秋の名月です。 なのでこんな短編を即興で書いて見ました。 月ちゃんをいじりたかっただけです。 |