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2014年 05月 17日 (土) 21時 33分
▼タイトル
とある事象の分岐点
▼本文
 寝台に横たわる彼女の顔色は驚くほど透き通っていた。
 元から色が白い事は知っていた。しかしそれでも……俺が素直に本心を零すと恥ずかしくて桜色に染まる事もあったのに、今はそれさえ期待出来ない。

「あー……帰って来たのか秋斗。オレはどうやらもう体すら起こせねぇらしい」

 彼女は小さく笑う。
 合わせて切りそろえられた金髪の前髪が揺れる。
 消え入る間際の、燃えるような灼眼に見つめられて俺の心は揺れた。

「バーカ。お前がそんな弱いやつじゃねぇのは知ってんだよ。次の戦の準備は出来たから、早いとこ起きてあのクルクルのちびっこをぶっ倒しに行こうぜ」

 言いながら寝台に腰かけて彼女の頭を撫でた。口では王としての彼女を、行動では女としての彼女を慰められるように。
 力を入れたら折れてしまいそうな程小さな、一人の子を産んでるくせに少女の見た目の彼女は、ふっと優しい吐息を漏らした。

「キヒヒ、最後までお前はオレを『オレ』としていさせてくれるんだな」
「クク、俺って敬老精神しっかり持ってるからな」
「抜かせガキが……」

 ふいに、弱々しく俺の手が握られた。
 掛け布の隙間から出る小さな手はか細くて、小さくて……壊れないように少しだけ力を込めて握り返した。

「もうちょっと早くにお前と出会えてたらなぁ……そうすりゃ大陸をオレのモノに出来たし、お前との子も作れたのに」
「おーおー、じゃあせいぜい長く生きてガキの面おがませてくれや」

 無意識の内に俺の手は震えていた。
 彼女が手を握る力が徐々に緩まっていくのを感じて。

「……菜桜を傀儡にしてお前と朱里で全てを操れ。軍事はお前、政治事は朱里が頭で回るだろ。まあ、菜桜はお前にゾッコンだから簡単にいう事聞くし問題ないか」

 それは遺言。自分の命がもう終わる事を彼女も理解していた。
 だから……俺も受け入れなくちゃダメだ。

「……遺言が娘を傀儡にしろってのもひでぇ母親だな。ま、せいぜいうまくやってやるよ。いつも通りだ。この大陸により多くの悪逆の華を咲かせてやるさ。後の平穏の為に」

 口元を引き裂いて笑いかけると、彼女も同じように笑った。

「キヒ、平穏なんか乱世の後に与えればいいんだ。
 あー……もうダメそうだ。眠くなってきやがった」

 彼女が安らかに死ねるように痛み止めを打ってあるらしく、うとうとと子供のように瞼を緩く瞬かせていた。きっと朱里がやったんだろう。

「……龍飛、最後に……なんかしてほしいことあるか?」

 ぽつりと滅多に呼ばない彼女の真名と共に口にすると、
 彼女は……少女の笑みに変わった。

「抱きしめてくれたらそれでいい。お前は私の天だから」

 ゆっくりと、彼女を抱きしめた。
 彼女からは次第に力が抜け落ちていく。
 しかし自分の方が年上だと示すように、俺の頭を優しく撫でていた。

「悪く、なかった……お前との、乱世……じゃあな、黒鴉徐晃……そんで……秋斗」

 消え入るような声で告げて、ぱたりと彼女の手が落ちた。
 不思議と涙は出なかった。
 心に穴も空かなかった。

「お前がいなきゃ……世界を変えても意味ないだろうが」

 身体はあれどもそこには居ない彼女に呼びかけ、俺は亡骸を抱きしめながら昏い夜を明かした。

――――――――――
智謀溢れる巨人に仕えた物語。劉表√の分岐点のお話でした。
この事象はお蔵入りです。

ちなみにこの時点(赤壁の少し前)での主要人物は
劉表こと金髪灼眼ロリババアの龍飛
その娘の菜桜
朱里ちゃん

斗詩と猪々子
七乃さん
ねねちゃんと言う異質なメンツです。

彼らは悪逆な戦の仕方をしていきます。朱里ちゃんは闇落ちしましたw
主人公の二つ名は黒鴉。元から鴉は黒ですが、彼の色を考えてと風評が最悪な為に黒を強調されてます。


書くことはないので、妄想の足しにして頂ければ幸いです。
ではまたー
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