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2019年 02月 11日 (月) 23時 49分
▼タイトル
こっそり
▼本文
こっそりひっそり今日が誕生日です。




どうせだからなんか短編書こうということで、以下は前につぶやきで書いたSF短編話の続き的なもの。

       


                          


                           

                               

                                  

 着脱式防衛艦一番艦『アトス』の内部に、難しい顔でデータを突き合わせる兵士たちの声が響く。

「構造分析どうだ?」
「主成分は分析不明。しかし土壌や植物、大気構成等は地球のデータと大差ありません」
「それが分からん。酸素濃度や二酸化炭素、窒素の割合までほぼ狂いなしってのはどういう了見だ?ここは本当に異星かよ?」
「まぁ、順当に考えるなら地球と同じ条件の揃った星ということでしょう」
「G型主系列星も近くにある。天候は分からんが、昼間の状態での気温は摂氏25℃。大地を緑が覆い、昆虫や動物も――データにはないが確認出来てる。まるで防護服など脱いでここに来いと誘っているようで気味が悪いな」
「そういう映画が太古の昔にあったらしいですね。何でしたっけ、タイトル」
「馬鹿、構造分析続けろ!」
「へいへい了解っとー」

 兵士とは思えないほどフランクな応答だが、これは彼らの所属先である『G.A.D?(ガド)』の気風と、母艦『ガナン』の艦長デヴィッド・セブンティ・ノアの「ユーモアは地球人の最も優れた文化である」という個人的自論が影響を及ぼしているものだ。見た目には緩く見えるが、それも宇宙という命の危機が隣にある環境で連携を密にする彼らの信頼関係がそうさせているのであって、縦割りはしっかりしている。

 そんな彼らは現在、地上調査の先駆けとして謎の巨大岩石を調査していた。
 既に地上では野生生物のサンプル捕獲や周辺環境に影響を与えない程度に仮設拠点まで構築している。現在の所、地球であればオゾン層であった場所に成分不明の大気層が存在し、放射線等の問題もさほど深刻ではないという調査結果は既に昨日上がっている。
 『アトス』のシステムをフル稼働してデータ収集を続けるオペレータの女性が困ったように唸る。

「うーん、かなり複雑な構造体です。外見上は植物に浸食された巨大な岩ですが、多種多様な植物と絡み合っている上に見た目以上にあちこちに大きな隙間があります。観測器の出力を上げるにしても、もっと近づかないことには……」
「しかしなぁ。ドローンを入れようにも原生生物が追い返してしまうしな」

 困ったように艦長が見つめる先には、地球のそれと随分趣の違う巨大な鳥の群れが警戒するようにドローン越しにこちらを睨んできた。眼球がない代わりに大きなレンズのような球体が頭部から生え、翼の淵など一部に用途不明の器官が見え隠れする。
 先ほど調査の為にドローンを接近させたのだが、困ったことにこの鳥たちが敵と勘違いしたのか撃ち落してしまったのだ。耐衝撃性に優れた大気圏内用ドローンなので破損等のダメージはなかったが、その後いくら接近してもすべて鳥に落とされてしまう。完全に警戒されてしまっていた。

「機動鎧殻(ガイスト)隊出しますか?ディスパネがあれば鳥を傷つけずに侵入も出来るでしょう?」
「うーん、しかしこれ以上原生生物に不要なストレスを与えるのはなぁ。なるべく穏便に行きたいところだが……ひとまずドローンのタイプを変えてみよう。フライトタイプは半数だけ残し、ポットタイプを30用意。大気圏内用だから間違えるなよ。鳥の反応できない速度で射出し、内部に侵入させる」

 ポットタイプは六脚の虫型ドローンだ。最初から虫型ではなく、ポット状態で射出され目標地点にぶつかった時に初めて変形する。脚部に特殊粘性ジェルとモスキートニードルが仕込まれており、場所が地面に対して垂直だろうとオイルで汚れていようと、壁への影響を最小限に抑えながら機敏な動きが出来る。調査速度はフライトタイプに比べると少々落ちるが、この際仕方あるまいと割り切る。
 ちなみにその他にも地質調査タイプや水中調査タイプのドローンが存在する。人を危険に晒さなくて済む無人操縦はありがたいものだ。

「ポットタイプ30機、下部射出管に装填完了!目的入力!」
「全機のデータのゼロタイム通信オン!フライトタイプを中継器に設定!」
「内部生命体からの妨害を考慮してギアを最大に設定!稼働時間は20時間!」
「コリオリ力と空気抵抗の計算終了!射出角調整、仰角、誤差修正!」
「リニアチャージはレベル1だ!大気圏内での作業が久しぶりだからって設定をトチるなよ!」

 艦長の号令でドローンが発射。リニア砲が連射され30のポットがバラバラの場所へ発射される。出力が強すぎるとポットそのものに不具合が出るし、対象を抉ってしまう。そのためにカタログスペックと比べるとかなり控えめな速度でドローンが射出される。
 それでも鳥の滑空速度に比べれば遥かに早い。チャージレベル1でも一応マッハ7近くはある。逆に、その速度を超えるとドローンの衝撃吸収ジェルが弾け飛んでしまうのだが。ともかく発射されたポットは狙い通り鳥たちの反応を超えて目標地点に到達し、艦長は一安心した。

 それから3分後、その安心がぬか喜びであったことに気付かされることになる。

「ポットタイプ30機のゼロタイム通信途絶!空間偏差場が構造物内部から発生しています!」
「地上の大気振動センサ及びドリルポットより振動感知!現在発生原因を逆算中!!」
「不連続波長発生!センサをHSモードに切り替えます!!」

 予想外の事態が発生することなどはなから予想は出来てきた。
 最初から上手くいく宇宙開発やフォーミングなど存在しない。
 それにしても、と艦長は嘆くように頭を振る。

「空間偏差場、大気振動、波長の発生源逆算完了、一致!すべて同じ座標から発生しています!発生源移動中、あと80秒で目視可能距離に入ります!」
「これは、ないだろう……!!」
 
 何十もの防御機構とバランサーで維持された『アトス』が無気味な振動に揺れる。理論上はガイストの大口径電磁投射砲の直撃を受けても紅茶の表面さえ揺れないこの『アトス』が。それは、空間にさえ干渉する『何か』の出現と、艦の撃沈と言う最悪の事態を想像させる。

 やがて、それは現れた。人類史上、この光景を何人の人間が見て、そして生き延びたのか――全長800mを越えようかという、蛇のような形状の怪物を。

 鋼鉄のハニカム構造のように連なった鱗。用途不明の数多の器官。背から生えるヒレを思わせる器官。そして、眼球と思しき五つのレンズのような半球を顔面に張り付けたその埒外の怪物が、構造体から這い出る。
 ヒレが空に展開され、浮遊。あの大質量物体がどうやって浮いているのか、データ観測が追い付かない。そして明らかにあの怪物は『アトス』に向かっていた。

「くそったれ!艦長、撤退準備を!!」
「……いや、地上に降ろした部隊を見捨てる訳には行かん!総員第二種戦闘配備!リニア砲を格納し、インパクトカノンを出せ!二重障壁展開!ガイスト部隊は装備が整い次第順次出撃せよ!!『ガナン』との通信はレーザーに切り替え、地上部隊には戦闘区域から撤退するよう指示を出せ!」
「艦長っ、相手はどんな存在かも不明なのですよ!?」
「分かっているッ!!非戦闘員は脱出ポットに入る準備をしておけ!!目的はあくまで時間稼ぎと撤退だ!まかり間違って前に出過ぎるなよ!!」

 ――のちに「ユグルズネスト撤退戦」と呼ばれるこの戦いが希望と絶望をないまぜにした結末を迎える事を、彼らはまだ知らない。
 
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