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海戦型さん
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2018年 12月 04日 (火) 01時 35分
▼タイトル
冒険者ギルドの受付嬢を書いてみる2
▼本文
 朝の7時。既にエントランスにはちらほら冒険者さんたちが集まり、クエストボードの前で今日の獲物に相応しい依頼を探しています。

 さて、ここで冒険者ギルドの何たるかについておさらいしましょう。

 冒険者ギルドとは、王政の影響力が高まっていくなかで、国直属の戦力、すなわち衛兵や騎士団の仕事内容に含まれない厄介事を解決するために設立されたもの――ではありません。

 実際には領地に好き勝手ケチをつけたり税金をふんだくろうとする王政に横柄さを感じた地元の有志が拠出して設立した自治組織がギルドになります。そのため、王政とギルドは基本的に仲が悪かったりします。
 さて、自治組織というのは実は結構アブナイ組織です。その組織が治める範囲の土地限定で強力な権限を行使することが出来るので、端的に言って街を支配できる独裁体制を敷けたりします。事実、大昔にギルドが出来た頃はそうした事態が結構起きていたそうです。
 しかしこれらの事情は300年前の「対魔戦役」や超国家条約の制定などの大きな歴史の転換点を経て民の益になるよう改善され、現在ではギルドは国家に対する独立性を維持しながらも、実質的には公的な機関として機能しています。
 さて、その冒険者ギルドの仕事。それは言わずもがな仕事の仲介、斡旋です。

 冒険者、と銘打ってはいますが、現在のところ冒険者には二種類のスタンダードが存在します。

 一つは未知の場所への探索や土地の開拓など文字通りの『冒険』を生業とする人たち。この人たちは基本的に数十人から場合によっては百単位のチームで活動し、専門職や経験豊富な探索者を揃えています。この人たちの仕事は危険な分だけ見返りも多く、そして基本的に長期の仕事なためベテランが多いです。時には稀少な資源の原産地を発見して巨万の富を得ることもあり、ここから大きな商社になったり貴族界に進んだり、いわゆる出世街道というものに乗ることが多いです。

 そしてもう一つが、冒険者というよりは雇われ兵か何でも屋。つまりこの街のギルドが斡旋する単発の仕事を処理してお金を儲ける人たちです。社会的に大きな何かを成し遂げることは少ないですが、商人の護衛や稀少な薬草、鉱物の採集など、平民の手が届かない痒い問題を解決する組織として民に頼られています。

 受付嬢ちゃんの仕事は、いわば民の暮らしに直結する重要な仕事。手は抜けません。
 ちなみにお給料については特別いい訳ではありませんが、安定して収入の見込める定職ということでそれなりにいい仕事という認識でも間違いはありません。なお、受付に着く人間は外見も多少考慮されるようで、受付嬢はなかなかに外見レベルの高い人が多いです。
 最近は女性冒険者が「男女差別だ!」と声を上げ、男性版である受付君の設立を要求していたりするそうです。単にイケメンと話したいだけなのでは?と思わなくはないですが、男女差別はよくないことですし、職場にイケメンが増えることは嫌ではないので受付嬢ちゃんは消極的賛成派です。

「へへっ、おはようさん!今日はコイツ頼むぜ!」

 本日のお客第一号は、最近このギルドで冒険者になった腕っぷし自慢の男性です。
 男性はマギムです。マギムとはすなわち種族名で、尻尾も羽も生えてないし肌の色も普通のとってもスタンダードな種族です。もともとこの国はマギムの国だったため、町の人口の7割程度がマギムで構成されています。ちなみに受付嬢ちゃんもマギムです。

 受付嬢ちゃんはお客第一号から笑顔でクエスト受諾用紙を受け取り、その内容を見て顔を顰めました。危険度6……一端の冒険者でも複数人でかからないと死人の出る危険な任務です。受付嬢ちゃんはそれを素直に彼に告げます。

「ええーっ、でも昨日倒したトラウドは危険度5だろ?ならコイツもいけるって!」

 このお客一号はとんでもない勘違いをしていることに気づいた受付嬢ちゃんは、慌てて間違いを正します。トラウドという魔物は土気色の巨人のような姿をしているのですが、昨日彼が倒したというのは同じトラウドでも群れからはぐれた子供のトラウドです。
 彼は昨日倒した存在がスタンダードだと思っていたようです。確かにトラウドの子供もその体長は2メートルを超えますが、大人のトラウドは体長5メートル近くになります。もちろん大人の方がその戦闘能力もグンと上がりますので、子供のトラウドの危険度は多めに見積もっても2.5程度でしょう。
 話を聞いたお客一号は青ざめた顔で虚勢を張りました。

「い、いやビビってねーよ。もちろん今でも楽勝だと思ってるよ。でも受付嬢さんがそんなに言うんなら今日は空気読んでこっちにしよっかなー……」

 彼がすっと出したのは危険度3の仕事。まだ少し背伸びをしているな、と受付嬢ちゃんは呆れました。新人なら新人らしく危険度1からきっちり馴らして、それから上げていくべきだと諭します。お客一号はそんなまどろっこしいのは嫌だといいますが、その手間を惜しんだ結果、惜しまれもせずに死という大損を被った冒険者は数知れません。

 冒険者として出世する一番の近道は、リスクの少ない道で経験を積むことです。
 そう断言すると、お客一号は渋々ながら危険度2の魔物討伐クエストを受注しました。
 任務内容は近隣の牧場付近にやってきたワルフの討伐。ワルフ自体はそれほど危険な魔物ではありませんが、追い払うのではなくきっちり仕留めるとなると逃げ足の速さが厄介になる面倒な依頼です。
 お客一号は、ワルフを倒して危険度2なんて美味い仕事だなぁ、と思っているようで、イマイチ依頼に対する理解が足りません。一応きちんと説明した受付嬢ちゃんですが、彼の顔からしてその面倒くささを正確に把握しているようには見えませんでした。

 ちなみにクエストには遂行期間が定められており、これをオーバーすると任務自体が成功してもペナルティで違約金が発生し、ケースによっては成功報酬も支払われません。更にやむを得ぬ事情で依頼をキャンセルする際は、キャンセル料を支払う必要があります。
 後者はそれほど高額ではありませんが、受付嬢ちゃんは彼がこの制度のどちらかのお世話になるのではないかと予想しました。

 難易度の高い魔物と、難易度の高い任務は、似ているようで実は違います。危険でない代わりに遂行が面倒な仕事という、いわゆるハズレがあることを彼は今日学ぶことになるでしょう。


 なお、受付嬢ちゃんの予想は後に悪い方に的中し、お客一号は任務を遂行しきらないまま飽きてその日の夜にギルドに戻ってくることになります。しかもペナルティの話を華麗に聞き逃していた彼は、真面目に働かなかったがゆえに二重にお金を取られて激しく後悔する羽目に陥るのですが……それはまた、未来の話です。
 
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