のつぶやき |
2018年 12月 04日 (火) 00時 40分 ▼タイトル 冒険者ギルドの受付嬢を書いてみる ▼本文 これは、とある剣と魔法の交わる世界で冒険者ギルドに務める受付嬢ちゃんのお話。 その日も受付嬢ちゃんは日が昇り始めた頃に目を覚まします。 受付嬢ちゃんが住んでいるのはギルド支給の職員寮。一軒家を持つ余裕のない20歳の彼女にはうってつけの場所です。異性の連れ込み禁止などの規則はありますが、基本的に真面目な受付嬢ちゃんはルールを疎ましく思ったことは余りありません。 受付嬢ちゃんは一度大きく伸びをして、はふぅ、とため息をつき、ベッドを降りて顔を洗い、身だしなみを整えます。毎日の仕事服であるギルド制服は数着をローテーションで洗いながら着ていますが、受付嬢ちゃんはそのデザインが結構可愛らしいところが気に入っています。 ただ、誰の要望化は不明ですが足や腰のラインを強調するデザインなので迂闊に太れないことが唯一の欠点でしょう。 受付嬢ちゃんは栗色の長い髪を櫛でしっかり梳き、いつものようにポニーテールに纏めます。自分で思うのもなんですが、なかなかに綺麗な自慢の髪だと受付嬢ちゃんは自負しているさらさらの髪です。その髪型から彼女はポニーちゃんとも呼ばれています。 お化粧、香水、バッグの中身確認……ヨシ!と確認し終えた受付嬢ちゃんはバッグを持って部屋を飛び出します。今日も冒険者たちがどんどん押し寄せるお仕事の始まりです。 ギルドの仕事の始まりは何か。いきなりデスク?カウンター? いえいえ、出入り口の出欠表に自分の名前を書くことからです。 これを忘れると上司に大変叱られます。受付嬢ちゃんも新人の頃は随分絞られました。 名前を書いたらさっそく仕事開始……という訳ではありません。 まず前日のうちに整理したゴミをゴミ捨て場に運び、そして連絡事項がないか職員用ボードをしっかり見ること。これなくして仕事をしているとは言えません。特にボードは毎日少しずつ情報が更新されているため、うっかり見ないで仕事をしてしまうと冒険者たちに間違った説明をしてしまいかねません。 「あら、おはようポニーちゃん」 ボードをチェックしていると、先輩のベテラン受付嬢があいさつしてきました。受付嬢ちゃんも当然挨拶を返します。 ベテラン受付嬢はそろそろ30才になるアダルティな受付嬢です。嬢って年齢じゃねえと陰口をたたいた人がどうなるか受付嬢ちゃんは知っているので、決して彼女の年齢関係については触れません。ただ、その豊満なバストとヒップ、ウェーブのかかった貴族っぽい金髪、そして化粧に比例して妖艶さを増す美貌は素直に羨ましく思っています。まぁ、あそこまでエロくなくてもいいとも思っていますが。 「聞いてるわよアナタ、なかなか人気みたいじゃない。ギルド若手でデートしたい受付嬢ランキングで2位ですって。いいわねぇ、若くて。でも男は選ばないとダメよ?でないとツリ目ちゃんみたいになるんだから」 そんなランキングがあることは受付嬢ちゃんも初耳でしたが、ツリ目ちゃんのことなら知っています。うら若き受付嬢ちゃんより2歳ほど年上の受付嬢であるツリ目ちゃんは、見た目のキツそうな印象の割に褒めるとチョロイと評判で、よくろくでもない冒険者に告白されて舞い上がっては数日後に破局してケーキを自棄食いしていることで有名です。 「あの子も可愛いところあるんだけど、どうしていつも見事にろくでもないのに引っ掛かるのかしら……あら、話しすぎちゃったかしら。それじゃ今日もお互い頑張りましょ?」 ベテランさんは丁度いいところで話を切ってひらひらと手を振りながら去っていきました。 見た目は遊び人っぽさのあるベテランさんですが、あれで意外と面倒見がよく、そして収入の安定しない冒険者とは付き合わないと公言するなど、結構堅実な思考の持ち主です。ギルドに入ってばかりでよく怒られていた頃はずいぶん励ましてもらいましたし、フラれるたびに泣いて自棄食いするツリ目ちゃんの面倒をよく見てあげているのも彼女です。 さて、そんな受付嬢ちゃんには他にもいろいろと同僚がいます。 「おっはー、ポニー!」 「あ、おはようございますポニーさん!」 「今日もみんなで頑張ろうねー!」 主に近くのカウンターで業務を行う同僚たち。上から順にギャルちゃん、メガネちゃん、イイコちゃんです。ちなみにイイコちゃんはこのギルドで一番庇護欲を掻き立てられる外見と声色をしており、若手冒険者に絶大な人気を誇っています。受付嬢ちゃんの予想が正しければ、デートしたい受付嬢ランキングの一位は二位以下とかなりの票差をつけてのイイコちゃんです。 しかし、光が眩しいほどに影とは深く暗くなるもの……いえ、それは本筋を逸れた話なので割愛します。仕事はちゃんとする子なので問題ありません。 「そーだそーだポニーも聞いてくれよー。鍛冶屋街のガンクツ鍛冶屋が代替わりしたらしいんだけど、すっげー粗悪品売ってて客足ゼロになりかけてんだってよ!それでな、この話には続きがあって……」 ギャルちゃんはとにかく噂話に鋭く、どこからともなく話のタネを誰かから仕入れてきています。しかしこの噂が意外とバカにならず、去年は彼女の噂話を元にポーション店での不正なピンハネが摘発されたりしています。 敬語が使えず年上に対してもこんな感じで喋っているギャルちゃんの元には、オイシイ話がないかと情報に餓えた人や、むしろ若い子に呼び捨てされるのがイイというちょっと年上の冒険者が顧客としてよく集まります。 「わ、私はそういう根も歯もない話を広めるのどうかと思うんです、けど……」 ちょっとオドっとしたメガネちゃんは、そのメガネに恥じずかなりの高学歴です。薬学や地質学、モンスター学、更には鑑定士の免許も持ったスーパーウーマン。ただしその専門的すぎる知識はコミュニケーションにはそれほど活かされず、トークは苦手です。 彼女のもとにやってくる冒険者は薬草探しや特殊な魔物探しなど、ちょっと難しいクエストの助言を求める人が多いです。どうやら彼女の話は武闘派冒険者には少々難しいというのもあるようですが、根が真面目なので長引く任務にも根気よくアドバイスをくれると信頼度は高めです。 「えー、でも本当だったら困りますよね!担当冒険者さんがそこの剣を使ったせいで魔物に負けて死んじゃったりしたら、哀しいですもの……」 さも悲しそうに目尻を下げるイイコちゃん。まぁ、普段からこのように玉虫色の思考を顔に出すことで庇護欲の強い冒険者のハートを掴んでいます。また、甘え上手で他の同僚や先輩をおだてつつも必要な情報をするする聞き出したりもして、アドバイスもおおむね的確です。 ただ、受付嬢ちゃんは知っています。彼女が面倒な仕事の書類をこっそり他の人の書類に混ぜたり、しつこく言い寄ってくる冒険者に超小声で「キモッ。死ねば?」と言ったり、何度か彼女から受付嬢ちゃんの方に冒険者人気が流れたことを知って「調子に乗んなよ馬の尻」とすれ違いざまに呟いていることを。 このように受付嬢ちゃんの同僚ちゃんたちは個性的で、その中にあって受付嬢ちゃんは特徴の少ないスタンダードな受付嬢です。ただ、普通ということは普通に頼れるということなのか、他の若手受付嬢の中でも不思議と寄ってくる冒険者さんが多かったりします。 さあ、今日も同僚たちと冒険者さんのお相手をする仕事が始まります。 |