暁 〜小説投稿サイト〜
海戦型さん
のつぶやき
つぶやき一覧へ/返信する/返信一覧/ペ-ジの下へ

2016年 03月 27日 (日) 23時 58分
▼タイトル
妄想物語10
▼本文
ここだけの話、この連載始めてからつぶやき一覧のページがかなり重いです。つぶやきの投稿数はともかく文字数ではサイト一位の気がする……。

 = =

 やっと折り返しだな、と青年は思った。
 試験が始まってから早い段階で出発した彼らは、既に仮設砦で折り返しの証である書を受け取っていた。前半に幾度か呪獣の襲撃を受けてひやりとしたが、いざ戦いになればまるで迷いなど無く行動に移ることが出来た。計三名、『地』の呪法を得意とした親友と『錬』が得意な槍使い、そして『熱』を司る自分が組んだチームは、今も順調に歩を進めている。

 呪法師が呪獣の接近を察知するのは難しい。呪獣はその殆どが「臭い」という物を持たないし、獣と同じく接近するときは鳴き声などを一切上げない場合が多い。そうなると相手の気配最も捉えやすいのは『音』ということになる。
 だから、このチームでは3人が完全に同じ歩幅、同じタイミングの足音で移動する。このリズムから逸れた足音がしたら、それは敵だと言う訳だ。

「思ったより順調だったな。この調子なら無事に帰りつきそうだ」
「油断はしてくれるなよ。お前の油断の巻き添えを喰らって死にたくはない」
「カッ、そりゃこっちの台詞だぜ!やっと下っ端準法師から上に這いあがるチャンスなんだ。最低でも出世するまでは死ねないね!」

 光源杖を指で弄びながら親友が笑う。金と地位に執着心の強い彼は、どうにも呪法師としての『使命感』のようなものが『欠落』してる気がする。だがそれゆえに彼は計算高いし、決して自分だけが高く上ることを優先している訳ではない。
 だからこそ自分も槍使いも彼と共にこうして試験に臨んでいる。僅かでも信用できないのならばこの3人は絶対に並んで戦ってなどいない。呪法師のタッグやチームとは得てしてそういうものだ。信用できない相手同士でつるむなどという「普通の人間がやるようなこと」を、『欠落』ある者は好まない。

「もしもの時はぼくの自慢の槍でフォローするので、きっちり全員で試験に合格しましょう」
「お、頼もしいな。これで心置きなくへマ出来るって訳だ!」
「……助けきれなかったら見捨てますからね。ぼかぁ出来ないことは諦める主義ですから」
「薄情だねぇ。ま、いいか。要は負けなきゃいいだけだろ、負けなきゃ」
「そう言う事だ」

 青年は、気の緩みを除けば行きより帰りの方が安全だと考える。その理由は、帰り道が舗装された道路だからだ。
 砦に辿り着いて初めて気が付いたが、仮設砦から『境の砦』までにはほぼ直通の運搬ルートが存在した。恐らく仮設砦を築く際に使われたもので、直線ルートの近くにある崖の上にあったせいか行きの際は気が付かなかった。また、途中までは平野であるため道路は半ばで途切れているので砦からはその存在が確認できなかったようだ。

 当然ながら、舗装された道は呪獣対策に遮蔽物が減らされ、通常に比べて移動しやすいよう整備されている。片側が崖であるのは注意点だが、逆を言えば崖側からの襲撃はない。

「無事合格したら都のいい店にでも行くか。『潮の都』から生魚の店が出店したって聞いたぜ」
「生魚ぁ?そんなものを食べたら腹を壊すだろ?」
「内陸と違って『潮の都』は生で食べるための知識が豊富らしいから大丈夫だろ。それに噂じゃ海の魚を生きたまま運ぶ呪法具が開発されたらしいしな」
「アデセコワ商会の新商品ですね。文明の発展は有り難いですが、また富が『潮の都』に傾きそうだ……」

 こつ、こつ、こつ。歩幅を変えないまま会話が続く。
 決して気を抜いている訳ではないが、微かな慢心はあったのかもしれない。
 だから。

「それで、店の場所はどこなんだ?せっかちなお前の事だからもう予約まで取ってるんじゃないのか………、……おい?」

 返答がないことを不審に思い、二人の顔が同じ場所へと向いた。

「……どうしたんです、急に黙りこん――」

 3人の足音が、いつの間にか『2人』の足音に替わっている事に、彼等は少しの間気付けなかった。
 カンテラの照らす数mの範囲に、先ほどまでいた筈の親友がいない。ふざけて後ろにでも回り込んだのかと思って周囲を改めて見回すが、やはりその姿がどこにもない。
 まさか、気を緩めすぎて灯りの外に出たのか――そんな不安が脳裏をよぎる。

「おい、カンテラの範囲から勝手に出るな」
「………返事がありませんね。それに、足並みを崩すような音もありませんでした」
「……どういうことだ?」

 不可解――としか言いようのない状況だった。しかし、もし呪獣に襲われたのならば音もなくいなくなることは考えにくい。しばし考えた後、青年は「何らかの理由で親友が立ち止った」と考えた。だとしたら、少し引き返せば見つかるはずだ。踵を返し、槍使いにアイコンタクトをする。
 まさか大切なパートナーを放置する訳にも行かないし、まさか崖に落ちたという事もあるまい。会話は途中まで続いていたのですぐ近くにいる筈だ。そう考えていた。

 十数歩程度後ろに引き返すが、道路に親友の姿は見えてこない。
 不審が段々と不安に移り変わり、背筋にぞわぞわとした感覚が奔る。

 人間は突然消失したりはしない。しかし、呪獣に襲われたのならば悲鳴の一つ、物音の一つは挙げる筈だ。何より親友は光源杖を持っていたのだから、非常時ならば対処していた筈である。だから、すぐ近くにいる筈なのだ。
 焦るように足が速くなり、槍使いの足音も慌ててそれに合わせていく。
 僅かに照らされた光の範囲に目を凝らし続けた青年は、やがて見たくないものを発見した。
 
 それは、道路を真紅に染める、生乾きの液体。

 心臓の鼓動が加速し、冷や汗が噴出するのを感じながら、青年はその液体を拭った。
 どろりとした粘性と、鼻を突く鉄臭さ。それは疑いようもなく、生物の命の源――血だった。

「―――ッ!!」

 その瞬間、青年は腰を落として拳銃を何もない虚空に構えた。
 いなくなった親友と残っている新しい血痕。それが表すのはすなわち、『敵』の存在。この空間のどこかに、呪法師を音もなく仕留めるような存在が潜んでいる。しかも、カンテラの照らす空間に侵入出来るような「上位種」の可能性が高い。
 こうなった以上、あの親友の生存は絶望的だろう。この試験は自分と槍使いの二人で至急『境の砦』に撤退するしかない。何より敵の正体が掴めないのでは下手をすれば全滅だ。槍使いに声をかけ、青年はその場からゆっくりと遠ざかる。

「……このまま撤退する!俺が後ろを、お前は前を護れ!」
「…………―――」
「復唱はどうした!?ボヤボヤしている場合では………」

 青年が後ろを振り向いた時、そこには誰もいなかった。
 呆然とする青年はしばらくその場に立ちつくし――やや遅れて、上から彼の顔に生暖かい液体がびちゃりと垂れた。青年は反射的にそれを手で拭った。


 どろりとした粘性と鼻を突く鉄臭さを感じる、真紅。


 ペトロ・カンテラでも照らせない遙か上から滴る血液と共に、彼の目の前にからん、と何かが落ちる。青年が震える手でそれを拾い上げる。カンテラの明かりを反射するそれは、見覚えのある仲間の槍だった。

 呪法師が戦場で武器を手放すとき。その意味を、青年は知っていた。

 呪法師が武器を手放すのは、永遠に戦えなくなった時のみ。

「あ…………ああああ………!!ああ、うわあぁぁぁぁぁぁーーーーーッ!!ハァッ、ハァッ……あああああああああああああああーーーーーーッ!!!」

 闇が支配する空間に、ペトロ・カンテラのちっぽけな灯と半狂乱な青年の悲鳴が響き渡った。
 
▼返信[返信する]

つぶやきへの返信は書かれていません。
つぶやき一覧へ/返信する/返信一覧/ペ-ジの上へ

[0]トップに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2025 肥前のポチ