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海戦型さん
のつぶやき
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2016年 03月 22日 (火) 14時 01分
▼タイトル
妄想物語9
▼本文
※本当は前回の最後らへんからここに繋がる筈でしたが、尺の都合で切りました。


「こいつらを叩きのめして速やかに目的地に移動する!敵正面、突破せよッ!!」
「………………!!」

 トレックの腹の底から吐き出された号令とほぼ同時に地を這う猛獣のように駆けだしたギルティーネは、抜き放ったサーベルを指でなぞり、柄に装着された鉄の歯車に装着されたワイヤーを指で引く。

 ギャリリリリリッ!!と耳を劈く異音を立てた歯車は大量の火花を撒き散らし、その火花が吸い込まれるように刀身へ流れていく。橙色の灯を宿した刀身が煌めいた、その刹那。

「―――――ッ!!」

 闇を裂くような空間に『線』を引き、なぞられるように呪獣がバラバラに切り裂かれた。

「な………」

 間抜けな事に、その呆気ない結末に最も驚いたのは命じたトレック自身だった。
 ギルティーネが放った肉眼では捉える事も難しいほどの瞬速の剣裁きは、呪獣の首を横一文字、身体を袈裟掛けに十字に断っていた。再生能力を持つ呪獣は、生半可な攻撃では殺しきれずに体が欠損したまま戦う事もある。それを考慮して、呪獣が多用する腕と相手を知覚する顔を正確に切断するのは確かに理想的な撃破方法だ。

 だが、それはあくまで理想であって実践で狙うのは困難だ。そもそも、剣を扱うのが人間である以上、「肉眼で捉えられない速度の斬撃」というのは本人の身体能力が『人間離れ』していなければ不可能だ。
 ぐずぐずに崩れて灯りに融けていく呪獣を感情の籠らない目で見送ったギルティーネは、刀身の光を散らせてトレックの方を見た。ペトロ・カンテラに照らされ闇から浮かび上がるしなやかな肢体から「あの」斬撃を繰り出したと思うと、あり得ない光景を見ているような錯覚を覚える。

 宝石のように美しく透き通ったその瞳が「もっと獲物を寄越せ」と催促する猟犬のように映ったトレックは、身震いした。もしもその牙が自分へ向けられたら――あれが本当に『人喰い』だったら。

(俺は……こんな闇夜の中に消えるのは御免だ)

 無理やり恐怖を抑え込んだトレックは、短く「行くよ」と呟いて歩みを進める。
 ギルティーネは、頷きもせずに斜め後ろを着いてくる。
 その沈黙が、今のトレックには最も不気味だった。



 = =



 散発的な呪獣の襲撃も、最初は恐ろしくとも数を重ねると慣れてくる。
 数体の呪獣の襲撃を退けて確実に前進しながらも、トレックの心中は少しずつ冷静さを取り戻していった。

 まず、拳銃の残弾には余裕がある。
 ギルティーネの圧倒的な接近戦能力を活かして最低限の自衛と援護にしか使用していないからだ。そもそも拳銃は強い攻撃力が必要な際や咄嗟の迎撃に力を発揮する武器。ペトロ・カンテラの火で戦う事も出来るのだ。
 ただ、カンテラは周囲に影の道を作らないために高い場所に掲げられている。つまり、触媒として利用するには少々遠いのだ。拳銃ならば指一本でいつでも使えるが、カンテラの火を触媒にするには銃に比べて5秒ほどのタイムラグが生じる。人によってはペトロ・カンテラと自前のカンテラの2重装備でこの欠点を補う人もいるが、これは『熱』の属性に特化した人間でなければバトルメイクが難しい。

 すなわち、今の拳銃一丁のスタイルが最もトレックの身の丈に合った戦い方だ。
 そして今のところは戦闘続行に何の問題もないため、このまま順調に進めば問題なく砦に辿り着けるだろう。

 また、ギルティーネの戦い方や武器に関しても考える余裕が出来た。
 彼女のサーベルの柄に装着されている歯車のようなパーツは、どうやら『鉄の都』で造られた最新型の『火打石』のようだ。構造までは分からないが、歯車型の火打石をワイヤーで引くことによって火花という『熱』の触媒を確保しているという構造だろう。

 彼女はこの『熱』とサーベルの『錬』を触媒に、炎を剣に纏わせている。
 トレックの記憶が正しければ、確か『疑似憑依(エンカンター)』と呼ばれる高度な呪法だ。記録によればこの『疑似憑依(エンカンター)』は『錬』とそれ以外の一つの属性を組み合わせる形式で行われるもの。そもそもは接近戦を得意とする呪法師によって開発されたもので、接近型呪法師の一つの到達点であるそうだ。

 呪法師には様々な術があるが、中でも『熱』と『錬』の二重属性は最強の威力を誇るとされている。その中でも炎を武器に纏わせる『炎熱疑似憑依(リャーマエンカンター)』は、禁呪として伝承制限を受けていないものの中では最強の威力を誇るらしい。

 その威力を疑う余地はない。『炎の矢』では完全消滅までに10秒程度を要した呪獣は、この炎の剣の前には秒殺だった。死の間際に捨て身の攻撃を仕掛けてくることもある中で、この呪法は間違いなく『一撃必殺』の攻撃だ。
 それほどの高みに辿り着き、人間離れした太刀筋で呪獣を斬り倒すギルティーネの戦闘能力は、下手をすれば自分より位が二つは上の中法師クラス。口がきけないことを除けばパートナーとして破格の存在だ。

(でも、頼りきりになる訳にもいかないか……呪獣の上位種が現れれば話は全然変わってくる。今は出てきていないみたいだけど、もし出てきたら……) 

 ちらりと後ろを見ると、こちらを見つめていたギルティーネと目が合う。
 戦力としては申し分ない彼女だが、果たして上位種にも同じだけの成果を出せるかは分からない。

 呪獣の中には、一撃で死ぬほどの攻撃を数度凌げる上位個体が存在する。
 先人が大地奪還を一旦縦断せざるを得なかったほどの被害を齎した上位個体。当時この個体の犠牲者になった呪法師の数は数百万にも及び、結界の完成が遅れていれば大陸の民が全滅していたかもしれないとさえ言われている。
 通常個体に比べて能力だけでなく知能も高いらしいこの個体に関しては、戦闘経験のある呪法師が圧倒的に少ないために戦闘ノウハウは殆ど伝わっていない。耐久力の高い個体、武器を使う個体、噂では呪法師とは異なる独自の呪法を扱うという話もある。

 先に待つのは不安要素のみ。毎年実地試験で死人が出る事を考えれば、出くわす可能性は十分にある。その際に自分は冷静に指示を飛ばし、確実に迎撃することが出来るだろうか。初めて出くわした呪獣にもあれほど心を揺さぶられた、自分が。

 そしてもしこの状況下で司令塔がミスを犯した時、最初に被害を負うのは前衛。

「………………ッ」

 トレックの脳裏に、鮮血を吐き出して崩れ去るギルティーネの姿が過った。

 もしも『人喰い』さえも喰らうような相手が出現した時は、トレックは――。

「考えるな……そうだ、死人は出ているが生き残りもたくさんいる。この試験は、冷静に動けば生き延びられる試験なんだ」

 地に足をつけろ、呼吸を整えて頭の中をクリアに洗え。自分に言い聞かせるように基本的な心構えを一通りなぞったトレックは、前を見つめた。そして、思った。

(今の独り言でギルティーネさんに呆れられてたらどうしよう……今日の俺って何もかも恰好付かないなぁ)

 ちらっと後ろを見たが、ギルティーネは相変わらず無表情でこちらを見つめている。
 つくづく、彼女の『欠落』は厄介だ。こんなしょうもない事でさえ、彼女には確認が取れない。


 = =

風の噂でギルティーネちゃんのサーベルって実は刀じゃないの?って質問を耳にしましたが、形状だけなら確かにサーベルより刀に近いです。どうやら「アーキタイプの剣」を基に作られたコピー品を改造したものだとか。作者イメージ的にはこの世界の武器は若干スチームパンクテイストなので、刀にスチームパンクなギアパーツを取り付けて、色合いとかに調合性を持たせた感じです。
なお、この世界には所謂日本刀というジャンルはありません。『鉄の都』の鍛冶師の一部が限りなく近いものをサーベルという分類で作っている状態です。
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