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海戦型さん
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2016年 02月 21日 (日) 23時 52分
▼タイトル
妄想物語2
▼本文
 
 トレック・レトリックが一般の学習機関からサンテリア機関への編入を決めたのは、1年ほど前の事だった。

 『呪法師』を育成する機関であるサンテリア機関は、学業を修了すれば将来が約束される特別学校だと一般には言われている。なにせここを出て『呪法師』になると都の重要な役職を任される立場になるからだ。近年『呪法師』の適正を持つ者が減少していることから職業需要は高まる一方であり、その待遇は一般の就業先とは一線を画す。

 行き先は大別して3つ。
 国防、治安維持、呪法の研究等を一手に担う『呪法教会』。
 国内外で最大の規模を誇る『潮の都』の巨大貿易会社『アコデセワ商会』。
 表面上は『呪法教会』と連携して統治を行う6つの都の行政組織『レグバ元老院』。

 どれも一般人では余程優秀な人材でなければ入ることも出来ない巨大な組織だ。そしてこの三つの組織に入る最大の近道こそがサンテリア機関。ならばこの機関はさぞ難関な試験でも乗り越える必要なあるのかというと、実際にはそうでもない。
 求められるのはそんな後天的能力ではなく、『欠落』だ。

 かつては大陸の民が呪われた証と言い伝えられたこの『欠落』があるかないか、それだけを機関は重要視する。だから昔はトレックも「俺にも『欠落』があればいいのに」、などと下らない妄想をしていた時期があった。
 この類の言葉を口にする人間は決して少なくはない。何せ『呪法師』と言えば巷では「正義の味方」に類する稀有な職業だ。彼らが『大地奪還』を行ったことによって大陸の民が救われたという話は余りにも有名過ぎて知らない人はいないし、現在使用されている言語、文化、技術の殆どが『呪法師』によって発案、体系化されたものだ。自分たちの文明の礎を築いた戦士、と呼べば子供は憧れもするだろう。

 だが、実際に『欠落』のある人間と共に過ごすと、自分は選ばれた存在ではない事を否応なしに思い知らされる。

 『欠落』のある者とない者の違いを言語にて説明するのは非常に困難である。
 会話や行動、反応。そのようさ些細な部分に見え隠れするほんの微かな違和感。その積み重ねを経ることで一般人は相手が『欠落』を持つことに確信を得る。それは非常に感覚的だが、どうしてか勘違いであることはない。そのため、自然と周囲は一般人と『欠落』持ちの間には目には見えない決定的な『壁』がある。

 会話は可能だ。
 ジョークだって交わせる。
 共に行動するくらいは当然できる。
 それでも、何となく「人とは違う」と感じてしまう。

 この感覚はむしろ『欠落』のある人間の方が過敏であり、彼らは自然と普通の人間を避けて仲間内で集合するようになる。それは遺伝的な物ではない為、親子で『欠落』の有無が発生するとかなり複雑な家庭環境に陥りやすい。
 そんな中、トレックは普通だった。両親も普通であり、家族関係にも問題は起きなかった。きっちり『欠落』持ちに避けられたし、普通の子供たちと一緒に遊んだ。だから自分には『欠落』がないのだと思い込んで14歳まで育った。

 だが、事実とは数奇なものだ。
 この年、トレックは家族で旅行に行った『潮の都』で『とある重大な事件』に巻き込まれ――そこで自分に『呪法』の素養があることを知った。後は説明するまでもない。それほど裕福な家庭に育ったわけでも成績が優秀な訳でもないトレックは、これ機に『呪法師』となって親の恩に報いようと考えた。

 結果、トレックは見事に孤立した。

 考えてみれば当たり前の事だ。トレックはこれまで普通の人間として生きてきたのだから、その精神は明らかに『欠落』が見当たらない。だから、普通の人間と相容れない『欠落』持ちしかいない環境で、周囲に馴染むことが出来る訳がない。

 トレックから相手に話しかけることで会話が始まることはあるが、相手から会話しようと思ってトレックに話しかける人はいない。同じ人間である筈なのに、まるで同じ人間だとは思われていないかのようだった。
 特に苦しんだのは合同作業だ。『呪法師』は2人から5人までの人数で行動するのが基本であるため、実技試験の多くがチーム行動を求められる。その度にトレックは無理を言って既存のコンビやチームにいれてもらう事で潜り抜けてきた。
 『欠落』持ちとはいえ理性のある人間なのである程度理解を示してくれる者もいたが、遠慮や思いやりというものが『欠落』した同級生からは『二度と来るな』と釘を刺されたりもした。『一般人の来るところではない』と皮肉られて腹が立ち喧嘩になったこともあるが、勝った所為で決定的に嫌われた。しかもそのせいで更に皮肉が悪化して、一部の同級生からは蛇蝎の如く嫌われていた。

 サンテリア機関の修了過程は3年。彼が編入してからまだ1年ほどしか経過していない。単純計算で彼はあと2年、この半孤立状態を継続しなければならないことになる。最初はどうにか乗り切ろうと思っていたトレックだが、過酷な環境は人間の決意など紙切れのように吹き飛ばす。

 ――次の実地試験を最後に、この学び舎を去ろうか。

 そんな考えさえ過っていたこの頃……彼の耳元に悪魔の甘言が届いた。


『君に専属のパートナーを用意しよう』


 哀れな生贄は、驚くほどあっさりと引っかかった。


 = =

とりあえずこの小説のタイトルは「満願成呪の奇夜」でいこう。
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