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2015年 07月 30日 (木) 01時 03分
▼タイトル
ひまつぶしpart.10 かきかけ
▼本文
 
 湯気が立ち上る白米のツヤの輝きと、黄金色でホクホクのさつまいも。さつまいもは触感を重視してか皮が剥いてある。その上から降り掛けられる黒ゴマの三色が絶妙のコントラストを生み出す。黒い光沢を放つ上質な茶碗に盛られたそれを、銀色少女は箸でつまみあげ、その香りを吸い込んだ。
 さつまいもの甘い香りと米の放つ独特の優しい香りをゴマがきりりと絞める。
 箸の上の米はよく立っており、見るだけでその舌触りが楽しみになりそうだ。
 内なる衝動に駆られ、銀色少女は口の中いっぱいにそれを頬張った。

 瞬間、ほのかな塩味と共にホクホクほかほかの穀物たちの大合唱が舌の上に響き渡った。

「――おいひぃ!」

 浮かべる表情は、満面の笑みを除いてあり得ない。
 これがさつまいもごはん。これこそが食事――これこそが『美味しい』という言葉の意味。
 名前を忘れた銀色少女は、ぶわりと噴き出る唾液と食欲の赴くままに、茶碗のごはんを粒一つ残さずに食べきり――空になったお茶碗を力強く雄大に突き出した。

「んぐんぐ………おかわりっ!!」
「あぁ、うん。本当よく食べるね……」
「そりゃ30年ぶりの好物ですもん!」

 雄大は、若干引き攣った笑顔と共にそのお茶碗に本日4杯目のさつまいもごはんを丁寧によそった。
 結局彼女の食欲は留まることを知らず、三合炊いたさつまいもごはんのうち8割強が彼女の胃袋に収まった。その食欲、驚異的。
 ただし、ご飯を口いっぱいに頬張っては幸せそうに頬を緩ませる彼女の姿は、どこかハムスターを彷彿とさせた。



 = =



 困った時は大人に相談。子供に可能な最終手段である。

「という訳で、どないしましょか教頭先生」
「そこで私の所に話題を持ってきたという驚愕の事実に動揺を隠せませんねぇ……」

 いきなり身元不明の少女を連れてやってきた入学生に、剣武洞学園の教頭先生はハンカチで冷や汗を拭った。普通に警察沙汰だけど、素手で有剣者をボコった学生と一対一なので下手に逆らえない。

「仕方ないじゃないですか!信用できそうで頭良さそうでこの手の話を聞いてくれそうなのが教頭先生以外思いつかなかったんですよ!」
「全部根拠が曖昧じゃないですか……もう、校長だけでなく生徒まで私に苦労を!」

 懐から取り出した胃薬らしき錠剤をガツガツ齧り始めるちょっと危ない校長先生とは裏腹に、銀色少女は窓の外に興味津々で「おお!」だの「ああ!」だのとよく分からない感嘆詞を上げている。流石30年前の女、現代社会の変わり様には敏感らしい。

「すごい……こんなテッコンキンクリばかりの町初めて見た!」
「鉄筋コンクリのことを言いたいのか?」
「そう、それ!うちの近所には木の家しかなかったから初めて見た時はビックリしたの!」



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