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2015年 05月 24日 (日) 23時 47分
▼タイトル
ひまつぶしpart.6
▼本文
 
 気勢を削がれた集団ほど脆い物はない。少なくとも雄大を相手にするには練度と数が足りない。
 
 誰かの息をのむ音が聞こえる。今までよその集団や気に食わない相手に見境なく喧嘩を仕掛けてきた怖いもの知らずの集団が、初めて遭遇した「怖いもの」だった。

 一方、雄大とは反対方向へ駈け出した統舞もまた不良相手に戦いを挑んでいた。但し、素手の戦いではなく彼なりのやり方で。

「何が舞だぁ!余裕ぶっこいてんじゃねぇぞぉぉぉぉぉぉッ!!」

 唾を撒き散らしながら眼前に迫る剣を前に、静かに唱える。

「立剣製定(レジスレート)――」

 呼応するように、掌に刻まれた神秘数列(ステグマータ)が輝きを増す。
 見えざる力、運命力という実態を持たない武器を体内から抽出する。
 運命よ、現世へと固着せよ。因果の定めに従うままに、我が力にして刃と成れ。

「――踊れ!神楽舞(かぐらまい)ッ!!」

 叫びと共に統舞の両手に朱色の柄に金の鍔の両刃剣が握られる。
 立剣製定された剣の銘は、有剣者自身や周囲が勝手に名をつける。
 統舞の剣の銘は母から受け取ったものでしかないが、その名は誇りに思っている。
 神楽舞という名が、自分のやるべき戦い方を示してくれたから。

 掴んだ双剣を、静かな動きでぴたりと目の前の不良に定められた。
 だが、目の前の相手に見せつけるように立剣製定するような真似は、不良たちからすれば「おりこうさん」のやることでしかない。不良は統舞の動きなど気にも留めずに己の剣を振り下ろした。

「ハッ!!気取ってなぁに中二病みてぇに叫んでんだぁ!?しかも素人丸出しの二刀流とかマジウケルんだけどぉ!まさか自分が本気出せば何でもできると思っちゃってるイタイや………つ?」

 次の瞬間、するりと統舞が不良の横をすり抜けた。
 さっきまで目の前にいた筈の統舞の一瞬の踏込と気が付けば逸らされている剣先に、事態へと追い付いていない頭が混乱する。

「な……なんだ、これっ」
「はい残念、隙ひとつ〜」

 不良は何が起こったのか分からずにたたらを踏もうとして、その不安定な足をすれ違いざまに蹴り飛ばされた。眼前にコンクリートの足場が迫り、顔面から衝突。脳を揺さぶる衝撃に不良は失神した。
 
「ったく。一回負けたくらいでピーピー喚いて今度は徒党なんて分かりやすい奴等だよなぁ、お前ら。怪我したくなかったら引っ込んでな!」

 忠告のつもりで叫んだ言葉だったが、既に仲間をやられて頭に血が上っている不良相手ではむしろ火に油。精神を逆なでされた不良たちは我先にと口汚く統舞を罵倒しながら突っ込んでくる。
 本当に分かりやすい連中だ、と内心で呆れつつも神楽舞を構え直す。

「テメェ!調子に乗りやがって!」
「ちょっとばかし小手先が器用だからって見下してんじゃねえぞクソがッ!!」
「死ねや格好つけ野郎!俺らがお前みたいなのに負けるかよ!」

 粋がってはいるものの、集団行動の中で親玉に従うだけの下っ端が持つ運命力などたかが知れている。それでも多対一の戦いならば徒党の方が圧倒的に有利だ。不良たちはそのセオリーに従って囲うように統舞に斬撃を繰り出す。
 だが――その刃は決して統舞に届くことはなかった。

「剣之舞、鳥舞の型……なーんてな」

 まるで踊るように緩やかで無駄のない動きと共に、神楽舞が煌めいた。
 捌くように迫り来る刃を打ち払い、受け止め、躱し、囲うように斬りかかった全員の刃を受け流していく。全員の重心を崩して別の方向へ誘導するような合理的効果と、舞を踊るような無駄のない美しさが融合した芸術的な剣裁きが、次々に攻撃を無力化させていく。
 不良たちは自分がどのように攻撃を受けたのかさえ理解が追い付かない。だが、現実として己の刃が相手に届いていないという事実だけはありありとと思い知らされる。こちらの剣筋を上回る速度で行動そのものが潰されていく様に、不良たちは空の底が冷えていくような焦燥を覚える。

 全てを見切った上で集団からイタチのように抜け出した統舞は、そのまま一人の足を引っかけて転倒させながら剣の柄で不良の一人の首筋を強打する。そして、そのまま立て続けに複数名の不良へと剣先を滑らせる。無防備な胴体に煌めく刃が迫り、一閃、二閃、三閃。

「ぎゃあああああッ!?」
「ぐああぁぁぁッ!!」
「い、痛てぇぇぇぇえ!ひ……ひ……人殺しぃぃぃ!!」
「アホかあんたは。俺達の剣はそれが起きないように制限が設けられてるのを忘れたのか?斬ったことはある癖に斬られたことはない性質かよ……呆れたな」

 ソードシステムには殺傷制限規定(ライトオブライフ)というリミッターが設けられているために死ぬことはないが、多少の出血と気絶相当のダメージはぶつける事が出来る。この町で不良集団が徒党を組んでこんな活動をしてるのに大きな事件にならないのは、この殺傷制限規定(ライトオブライフ)があるからといっても過言ではないだろう。
 だが、痛みはある。それがなければ人は成長することが出来ない。
 何故なら痛みは後悔と対策を考えさせる教訓になるからだ。

 この相手の刃を受け流す戦法は、かつて剣がb\脆くなり始めた頃に我流で生み出した戦術だった。
 刃への負担を最小限に相手の体勢を崩し、確実な一撃を加える。沢山の敗北と痛みの中で編み出したのに、心が弱かったせいで少し前まで使う事が出来なかった、統舞なりの"剣之舞"だ。
 痛みに悶える連中を尻目に、鋭い目つきで尻込みする不良連中を睥睨する。相手方の声色は、既に最初の威勢を喪失していた。

「な、なんだよオイ……聞いてねえぞこんなに強いなんて!」
「お前先に行けよ……こいつらに最初に喧嘩売ったのはお前だろ!」
「そ、そうだぜ!大体お前、片方は弱かったとか抜かしてたじゃねえか!!」

 人をそっちのけで内ゲバ出も始まりそうな勢いだな、と統舞は呟いた。
 どうやら集団で行動している所為で自分が斬られるという経験は殆どしたことがないらしく、見るからにその士気は下がっていた。
 唯一リーダー格のミスター木刀のみは相手の行動を見極めるように静かな瞳で状況を観察していたが、子分に激を飛ばすことはしないらしい。あるいはこちらの動きを観察して対策を立てているのかもしれないが、どちらにしろ退く気がないならやることは変わらない。
 不意に、背後から風を切るような音がして反射的にサイドステップで移動すると、先ほどまで統舞のいた場所を猛スピードで不良が通り過ぎて行った。

「うおッ!?に、人間砲弾!?」
「すまん統舞!一人投げ飛ばしたのがお前の方に飛んじまった!!」
「お前の仕業かいッ!!飛んじまったって紙飛行機じゃないんだからな!?気を付けてくれよ雄大!」

 反対側の不良を10名ほどなぎ倒した雄大が悪戯に失敗したようにテヘっと舌を出した。
 お願いだからドジっ子のノリで70キロ近くの重量を投げ飛ばしてくるのは勘弁願いたいところである。素手で有剣者を投げ飛ばすとは、相も変わらず型にはまらない男だ。これで剣を持っていたらどれほど強いのか、少しだけ気になった。

「……さて、もう前回の撃破人数を越えてる訳だけど――どうするよ『ウッドロウ』。これ以上手を出して火傷してみるか?俺はお前らに負ける気はないし、雄大と二人なら負ける可能性もないと断言するぜ?」
「はっきり言っておくが、お前らがまだ実力も弁えずに果敢にも立ち向かって来ると言うのなら、損するのはお前達自身だぞ?……よく考えて運命を選ぶんだな」
「「返答や如何に?」」

その問いにミスター木刀は考えるそぶりを見せ、不敵ににやりと笑いながら返答した。

「その啖呵……ウチのチームに所属してないのが残念でならねえな。お前等はどちらかというとアウトローの臭いはするんだが……いいぜ、ここは退いておいてやるさ」
 
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