のつぶやき |
2015年 05月 19日 (火) 01時 35分 ▼タイトル ひまつぶしpart.4 ▼本文 ミスター木刀と愉快な子分たちの会話をよそに、物思いにふける。 今、自分たちがミスター木刀に絡まれる遠因となった一か月前の乱闘に。 この町に住む人間は、ほぼ例外なく有剣者――運命力を物質化できるルールの下に生きる存在だ。 だが、力は血気盛んで反骨精神旺盛な若者を奇行へと駆り立てる。不良の集団はその典型だった。 奇抜な服装に奇妙な言動、そして意味があるのかないのか不明なチーム名の下に集う謎の一体感。 町の北区では特にこの手の連中が数多く点在し、互いになんちゃってギャングのように勢力争いを繰り返している。治安部隊とも度々騒ぎになり、町に住む者は同類以外は滅多に近寄らない。 だが、その日の統舞は別に値魔未知の為に急いでいる訳でもなく、そこを通った。 はっきり言えば、統舞はこの町では落ちこぼれの部類に入る有剣者だった。 『剣法』によって運命の物質化を果たしたとしても、その運命が強い者とは限らない。運命力が弱い人間では一寸法師の針のような小さな刃しか生み出せないことだってある。当時の統舞はそれが別の方面で顕著だった。 「ハリボテ剣士」。それが統舞につけられた仇名。 立剣製定(レジスレート)する剣がガラスのように脆く、一度ぶつけてしまえば砕け散ってしまう。何度練り直しても、何度力を込め直しても同じ結果が訪れる。特に中学生の頃から強度の劣化は加速度的に進行し、卒業するころには「見てくれだけは立派だ」と後ろ指をさされるほどに落ちぶれた。 原因は知っていた。 中学頃になってから、周囲で異常なまでに「足並みを合わせる」という行為の重要度が増す中で、自分は我を通せなかったからだった。 本気で勝負して勝つと「何を必死になっているんだ?空気を読め」と冷たい目線を向けられる。 道徳的に間違っていることを注意すると「何を真剣ぶっているんだ?空気を読め」と冷遇される。 振られた話は私見を混ぜずに相手に合わせる。好きな趣味は建前だけでもすべて友人に合わせる。 そうしなければどんどん疎外されていく環境の中で、精神的に未熟だった統舞は周囲に必死で合わせた。 他人の望むがままに自分を合わせる行為は逃げに他ならない。そんな生活を続けるうちに、統舞の運命力は見るも無残な形骸を晒していた。いつの間にか周囲からも情けない奴と軽蔑されるようになり、しかしそれに反論するだけの勇気は胸から消え失せている。 周囲が強くなっていく中で精神的にも実力的にも取り残され、統舞は次第に世の中の全てに嫌気がさしてきていた。 何が運命力だ。 何が『剣法』だ。 もう自分が何のために立剣製定を行っているのかも、自分が何を目指していたのかも朧げになる。中学時代の生活は、統舞の自我や意志力をごっそりと削り取っていた。ふらふらと町を歩むその姿は運命力のない生きた骸。これから何を考える事も、何を為す事もない。 つまるところ、やけっぱちだった。 不良と肩がぶつかり、掴みかかられる。 罵声を浴びせられ、殴り飛ばされ、剣を突きつけられる。 汚らしい路地裏に、痛む身体とゴミが投げ出された。 屑だと思う相手にさえ屑扱いされる自分を、ひどく冷めた自分が見下ろしていた。 ふと、抵抗するように剣を作ろうとして、思う。 今更存在価値もない自分が作り出す剣に一体何の意味がある? 剣を作り出せない人間を外界人と呼んで見下すこの町で、その剣を満足に作り出せない自分が、今更その手で何の運命を切り開けるというんだ? 意味がない。価値がない。やらない―― (はは……俺ってば、本物の屑だ) 自虐的な乾いた笑い声が喉から漏れる。 結局、運命を切り開く力なんてなかったんだ。 外界人以下の、未開の野蛮人以下の、家畜以下の存在。 ――そんな自分の在り方を、心のどこかで許容している自分が、何よりも情けなかった。 そして。 「一人相手に寄ってたかって何をしてるんだ?情けない奴等……お前らの運命ってのはそんな下らん事をやるためにあるのか。ならばこの俺が直々に活人剣を……いや、"活人拳"を叩きこんでやらぁッ!!」 剣を相手に拳で立ち向かった未来の親友をその目に捉えた時、統舞は情けないを通り越して許せなくなった。 剣を持たずとも運命を変えようとしてるお人良しもいると言うのに、自らの可能性を勝手に心の奥底に封じ込めて屑に甘んじている自分の存在が、許せなくなった。 そんな心意気を見せつけられてもまだ路地裏で腐りきって、恩人の手助けもしようとしない自分を自覚した時――統舞は、自分を変えることを決意した。 「待てよ………元は俺の喧嘩なんだ。俺の運命だ。俺が変えなきゃいけなかった未来なんだよ!だから……俺も混ぜやがれぇぇぇッ!!」 数年ぶりに思い出す勝利への執着。心臓を振るわせる灼熱の躍動。 その日、俺は見ず知らずの男と共に10名の不良をぶちのめすことによって数年ぶりに自分を取り戻した。 そして――その代償として今まさに面倒事に巻き込まれているわけだ、と統舞は自嘲した。 一昔前ならばその事態に無駄な後悔と自己保身を重ね、藁のようにが去るのを待ち望んだかもしれない。だが、今はどうしてかそんな自分の心に余裕がある気がした。 根拠なんて無いが――この世間知らずの大親友とならば、どんな困難も乗り越えられる気がした。 |