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『銀河英雄伝説 エル・ファシルの逃亡者(新版)』への感想

投稿者:tukiyomi
[2015年 10月 04日 16時 17分]

▼良い点
エリヤ君この世界では幸せになってくれよ

▼悪い点
少なくともシトレが教育者としては最悪クラスの無能だったこと

▼一言
何というかシトレ派にだけは国を任せられねーわという気分に。

「地位もお金もほしくないって人が信念で結びついてる」って、よく言えば「ノーブレスオブリージュ」になるんですが、一歩踏み違うと「他者の意見を聞こうともせずに自分達の理念に固執し続ける集団」となるだけ。そして歴史を見ると、得てしてこの手の集団は、世間との乖離が生じると、組織内での純化路線が強くなって、ますます世間との乖離が生じて、遂には世間から叩き潰されるのがオチ。

ダーシャは「根っからの好戦派集団」と断じている訳ですけど、もう一つ付け加えるならば「自分達の理念が正しいと盲信している集団」ですね。
好戦的であり且つ自分達が折れるなんてことをしない。
そりゃトリューニヒトならずとも完膚なきまでに排斥しようとしますわ。
だってもうこの人達の行動原理って、「自分の敵か味方か」でしかみないんですから。政治なんて「自分以外全て灰色。今日は敵でも明日は味方。そしてその逆もあり」なんてザラなんですから。

しかし、ヤンにしろ、その他の面々にしろ、シトレは一体どういう教育を施したのか。「権威に盲従するな」はともかく「権威と見たら噛みつけ」なんて、アナーキスト以外の何物でもないですし。
軍人でアナーキストなんて、革命予備軍以外のなにものでもないです。
士官学校校長時代の自分の教え子が、明らかにまずい思想を振りかざしているのに、それを矯正するどころか便利に使っているとか、シトレの見識そのものを疑う状態ですね。
まあヤン達も権威を嫌いながら、実は体制の恩恵にどっぷりとつかっているんで、より一層反発を買うことになるんですが、多分この矛盾は死ぬまで理解できないでしょうね。

所変わって帝国は、和平を支持していたラインハルトが対同盟最前線に左遷。
うん。ラインハルトが中立派の兵力を掌握できる大義名分渡しましたわ。
ヤンは「帝国内戦に介入して和平を」なんて言っていますけど、これなんかも「和平の相手はどこにするのか」「その和平は本当に履行されるのか」「介入はどこまでするのか」なんて大事なことをどこまで詰めているのか。
正直、ヤンって軍事戦略面で詰めるべきところを、政治家と付き合うのが嫌で、政略面でのすり合わせとかを完全に疎かにしていますからねえ。
アイランズが必死の思いでお膳立てしようとしているのに、ビュコックもヤンも「それが当然」と思い込んでいる辺り、民主共和政の軍隊じゃなくて、第一次大戦時のドイツ帝国の将官の思考そのものなんですよねえ。


▼返信
投稿者: 甘蜜柑
[2015年 10月 04日 (日) 18時 34分 20秒]

感想ありがとうございます。

シトレ元帥は政治家でなくて軍人を育てる人なんで、いい教育者なんじゃないでしょうか。

指揮官としての優秀さと組織人としての優秀さは得てして対立します。勝てる方法を見つけたら上司だろうが大統領だろうが譲らない。勝つためならルールだって破る。偉い奴に何と言われても無視して勝ちを求める。組織人としては失格ですが、指揮官としては満点です。合意を取り付けてる間に戦機を逃したり、偉い人のいうことをホイホイ聞いて作戦を曲げたりしたらどうしょうようもないんで。自分を絶対的に信じてて何にでも噛みつくような奴こそが性格的には望ましいんです。

喧嘩好きというのは要するに脳みそが戦争向きにできてるということ。アッテンボローは「準備の手間を惜しまない男」。つまり生まれつきの戦略家です。シトレ元帥がそういうのを手元に集めるのは、戦争向きの脳みそを見込んだんだと思いますよ。

忠誠心とかそういうのは政治家がコントロールしたらいいわけで。軍人は猛獣で政治家は猛獣使いの関係ですよ。強くないと頼りにならないけど、強すぎると危ない。その微妙なラインの上で政軍関係は成り立つのです。

>ヤンは「帝国内戦に介入して和平を」なんて言っていますけど、これなんかも「和平の相手はどこにするのか」「その和平は本当に履行されるのか」「介入はどこまでするのか」なんて大事なことをどこまで詰めているのか。

具体的なことは作戦案の段階で詳細に詰めるし、詳細でないと作戦案にならないと以前に作中で書きました。それがない作戦案は通りません。曖昧な企画書が現実の組織で通らないのと同じこと。だから、普通に書いてると思ってください。当然、誰と組むのか、誰と交渉するのか、どうやって履行させるのかなんてことも書いてるでしょう。発表されてないから作中では書いてないだけで。

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