「冥王来訪」の感想


 
コメント
アイリスディーナとカティアの心の中には統一ドイツが平和な中立国となりましょうが? 
作者からの返信
作者からの返信
 
>アイリスディーナとカティアの心の中……統一ドイツ
 ご感想ありがとうございます。 
本文を目を通したのですが……肝心の統一ドイツに関する見解が述べられていないんですよね。
 カティアは『ふたつの故郷、ひとつの道』の中で、『この国の人々を助けたいから……』と語っています。
これは狭量で有名な、政治将校のグレーテルが聞いたら、西側の支援で東ドイツを救うと見るでしょう。
 一方、カティアが三か月間の訓練学校の後に参加した第101戦術機大隊のメンバーからは、カティアは『赤の手先』呼ばわりをされています。
 このことを勘案しますと、カティアは統一ドイツを目指していたが、ソ連が言ったような非武装中立の統一ドイツを目指していたのかもしれません。
 カティアは1970年台から1980年代の西ドイツ人やその教育を受けたとは思えないほど、容共的な振る舞いをするかと思えば、自由社会でしか言えないようなことを東独の中で平気で言って、周囲のものをやきもきさせる節があります。
まるで、反戦平和の思想教育が行き渡った現代日本から転生したような見解を言うのです。

 一方アイリスディーナは、西側には一度も行っていませんが、幼少期にソ連、文革前の中国、東欧に父の仕事で赴任しています。
その割には、兄ユルゲンと揃って、西側の自由世界の人間のような事を平気で考えたりするのです。
これは父親の教育方針で、東ドイツ政府や現地政府からの外務省職員を家庭教師としてつけなかったおかげでしょうね。
 ソ連などは、日本大使の家族に対しても、ロシア語の教師という形でKGB工作員を近づけたりしました。
おそらく父ヨーゼフは自分の経験上、語学教師や家庭教師がスパイだというのを知っていたからでしょう。
 アイリスディーナの考えるドイツとは、どんなものか。
第7巻の末期の言葉では、「兄の……守ろうとした全てを」としか言っておりません。
 ユルゲンは1976年の段階で、BETAが東ドイツを攻めて、東ドイツの国家体制が崩壊したとき、西ドイツに逃げるしかないというアイリスディーナの質問に対して、「ここで話すべき話じゃない」としか言っていないんです。
 私はこの様子から、ユルゲンは西ドイツとの経済的統合を本心では望んでいたが、目の前にベアトリクスがいたので、アイリスディーナの質問にあえて答えなかったとみています。
 アーベルに対して、戦術機導入の件で、「同じ民族である西ドイツは世界有数の工業国です」と挑発するようなことを言っていますから、亡くなる1~2年前にはかなり西ドイツと東ドイツの経済格差を知っていたようです。
(1972年の段階では、経済格差を実情の半分程度と見積もる楽天家ぶりを見せていました)
 外伝で、西ドイツ軍と飲酒したり、西側軍隊と関わりを持とうと行動をしていますから、その本心は、西ドイツによる経済的併合を受け入れていたとも取れます。
 ただ、彼女も、彼女の兄ユルゲンも悪い事なんですが、信頼する人間であっても、遠回しにしか本心を言わないので、利き手の方が、非常に誤解して、受け取る可能性があるのです。
シュタージ対策なのでしょうけど、前後の文脈や行動を見てみないと理解できないんですよね。
 以上が私の見解ですね。
いささかやぶ睨みな面もありましょうが、カティアはソ連型の非武装非同盟の中立国家論、アイリスディーナは、市民生活という観点から西独による併呑すら容認する立場であったと見ております。